北アルプスには「三大キレット」と呼ばれる難所があります。
白馬岳と唐松岳の間にある「不帰キレット」,五竜岳と鹿島槍ヶ岳の間の「八峰キレット」,そして槍ヶ岳と穂高岳をつなぐ「大キレット」です。
大キレットには去年行ってきました↓
キレットとは両側が切れ落ちた稜線が大きく落ち込んだところで,険しい岩稜を激登り・激下りするので縦走においては要注意箇所となります。
三大キレットは北アルプスで有数の難所です。…ということは,すなわち日本でも指折りの難所であるわけです。
さて,今回は後立山連峰の白馬岳から入って,不帰キレット(かえらずキレット)を越えて,唐松岳まで縦走してきました。
不帰キレットを越える際には,稜線を大きく下ったあとに,ノコギリの歯のような3つの岩峰を乗り越えて唐松岳に抜ける必要があります。この岩峰は不帰I峰,不帰II峰,不帰III峰と名付けられており,これらをまとめて「不帰の嶮」(かえらずのけん) と呼びます。
…なんというか,名前がヤバそうなんだよね(汗)。
初日に雨に降られてけっこう辛かったんですが,ところどころで絶景を見ることができたし,不帰の嶮を越える時には雨に降られなかったのでヨシとしています。
北アルプスでも有数の優美な山容を持つ白馬岳*1 と唐松岳,その間にある険しい不帰の嶮。変化に富んだ,そして予想以上にハードな縦走となりました。
1日目は栂池から入山して白馬岳までの記録です。
*1 白馬岳と杓子岳,白馬鑓ケ岳を合わせて「白馬三山」といいます
栂池高原から入山です
白馬岳に登るメジャーなルートは二つあります。一つは猿倉を拠点として,大雪渓を登るルート。もう一つは栂池から入って,白馬大池,小蓮華山を経由して山頂に至るルートです*2。
どちらも素晴らしい道ですが,今年は大雪渓に多数のクレバスが入っていることが確認され,大雪渓ルートは通行禁止になっています。
それで今回は栂池から入山します。
栂池へのアプローチは,夜行登山バス「毎日あるぺん号」を利用しました。23時に新宿を出発。途中でトイレ休憩を挟みながら,早朝5時40分に栂池に到着です。
バスはほぼ満席でしたが,僕の隣の人がキャンセルしたようです。スペースをゆったり使うことができ,よく眠れました。
栂池についたらゴンドラ・ロープウェーのチケット売り場に並びます。この日のゴンドラの始発は7時ちょうど(期間・曜日によって変わるのでこちらで確認を)。片道チケットは2000円だったかな。
ゴンドラ→ロープウェイと乗り継いで行きます。楽々一気に標高1000 mを稼げるありがたさよ (^◡^)。
ロープウェイを降りると,もうそこは標高1900 m。
天気は,うーん「曇り」ですかね。でも登っていって雲の中に突入すると雨に当たりそう。この天気は予想していたことなので覚悟の上ですが。
それでは登っていきますよー。
まだ森林限界は越えていませんが,時折視界が開けます。もっと天気が良ければ頚城山塊が見渡せるんですが。
*2 他に鑓温泉小屋を経由するルート,黒部側の欅平から入山するルートもあります。ただし欅平起点のルートは,今年は通行止めです(能登半島の地震の影響で黒部渓谷鉄道が不通のため)
天狗原湿原を過ぎて白馬乗鞍岳へ
スタートしてから約1時間で天狗原湿原に辿り着きます。池塘を囲む草々は,ちょうど色づき始めたところでしょうか。草紅葉が始まろうとしています。
この辺りで雨が降り始めたので(というか雨雲の中に突入したので,というべきかな?),レインウェアを着用し,ザックカバーをかけます。
雨の中とはいえ,湿原の風景はしみじみと美しく,目に沁みました。写真映えはしないけどね。
湿原を過ぎると急登に転じます。このあたりは巨岩がゴロゴロした "ゴーロ帯"。歩きにくいですね。
実は僕はこのゴーロ帯が苦手なんです。岩の間に落ちそうで怖いから。今日は岩が濡れて滑るからなおさらです。
そうは言いつつだいぶ登ってきたと見えて,振り返ると天狗原湿原がはるか下に見えました。
そして天狗原湿原から登ること1時間強で,この日最初のピーク,白馬乗鞍岳 (2437 m) に到着です!大きなケルンが立った,だだっ広い頂上。みなさん雨具をつけて休憩しているようですね。
山上の楽園,白馬大池
白馬乗鞍岳を過ぎてもゴーロ帯は続きます。緩やかに下っていくと目に飛び込んでくるのが白馬大池。
ここは夏のシーズン中,花に包まれる「山上の楽園」です。
このあたりは晴れていれば,こんな景色が展開するんですけどね(5年前に息子といっしょに歩いた時の写真です)。
今回は雨で展望が効かないけど,こんな風景を知っているから,心の目と想像力で景色を見ながら歩くのです (^◡^)。
鈍色の空の下だけど,ここは大好きな場所なので,また来るような気がします。
白馬大池畔も,天気が良かった時の写真を置いておこう。
小蓮華山へ向かいます
大池の辺りでまったり休憩すれば気持ちいいけど,今日は雨が降ってるのですぐに先に進みます。
ここから次のピーク,「船越の頭」を目指します。
まず大池を左手に見ながらゆるやかに登ります。夏なら道の両側に高山植物が咲き乱れるところです。
登っていくほどに,白馬大池が眼下に低くなっていきます。どんよりした空なので,大池もその色を映して鈍色ですね。
だんだん傾斜が増す道を登り,割とあっさりと船越の頭(2612 m)に到着。この通り何も見えないのでスルーして先に進みましょう。
続いて小蓮華山に続く稜線の登りになります。
このあたりから白馬岳にかけての稜線は,日本でも有数の気持ち良い稜線だと思います。長い登りになりますが,晴れていればサイコーなんですよ。いえ,雨の中でもその片鱗は感じられますね。
晴れていればこんな眺め↓。「こういう景色の中を歩いてるんだ」というイメージを持って足を運びます。なかなか楽しいではないですか。
谷を見下ろすと,ガスの動きがダイナミックです。
12時40分,歩き始めてから5時間で小蓮華山(2766 m)に登頂です。山頂標タッチで証拠写真としましょう。
小蓮華山には,大きな剣が刺さっています。山岳信仰の名残なんでしょうが,剣のほかにはその痕跡が見当たらないので,どういう神様を祀っているのかよくわかりません(立山に比べると後立山連峰は宗教色が薄いですよね)。
しつこいけど,また晴れた時の写真を。天気が良ければここ小蓮華山は,白馬三山(白馬岳,杓子岳,白馬鑓ケ岳)の絶好の展望台になるところです。
白馬は白い山肌と豊富な残雪で,"バタ臭い" アルペン的な雰囲気を感じますね。美しい山です。
「日本で一番美しい山は?」と聞かれたら「白馬」と答えるかも。大好きなんです。
白馬岳を越えて,頂上宿舎テント場へ
小蓮華山をあとにすると,白馬岳への長い登りが始まります。尾根は遮るものがないので,風雨がまともに吹きつけてきます。
でも時おり遠くまで見渡せる瞬間があり,その広大なスケールを垣間見ることができます。
稜線を辿ると程なく通過するのが「三国境」。長野県,新潟県,富山県が交わるところです。
三国境を過ぎると道は傾斜を増していきます。景色が見えないこともあって「ここ,こんなに急だったっけ?こんなに長い登りだったっけ?」なんて思ったり(汗)。
標高を上げて白馬岳が近づいてくると,尾根は後立山連峰特有の,顕著な非対称山稜になってきました。
ここはフォッサマグナに沿った場所なので,東側は大断層の急峻な地形になっているのです。
さて,ますます強くなってきた雨の中,14時を過ぎたところで白馬岳(2932 m)に登頂です!
靴の中まで濡れてきちゃったなあ…。写真だけ撮ったらスタコラ下ることにしよう。
こんな天気だけど苦い思いはないよ。ここは5年前に息子と歩いた思い出深い稜線。その時の光景を思い浮かべながら歩けるからね。
途中で大きくて立派な白馬山荘の前を通過します。とても快適そうなラウンジがあるので,お茶でもしてみたいですね。でもこんな濡れネズミで入るのも気が引けるので,また今度ね。
もう少し下ったところにあるのが,白馬村営の「白馬岳頂上宿舎」。白馬山荘にはテント場がないので,テント泊するならこちらです。
テント泊の受付をしたら,雨の中で設営です(後立山連峰のテント場は予約制なので注意)。テント場は空いていました。天気が悪いし,小屋泊まりにした人が多かったのかな?
雨が降っているので,フライシートをしっかり張るように心がけます。どうしても設営中に中が濡れてしまうけど,超吸水スポンジで拭き取れば大丈夫!
超吸水スポンジはこういうの↓ びっくりするくらい吸水します
つらい夜を過ごしました
この夜は強い雨が降り続き,時々風も吹きました。モンベル・ステラリッジドームの耐候性は素晴らしく,上からの雨漏りはありませんでした。
けれども床下が池のようになってしまいましてね。どうしても下から染み出してくる水で,夜中にシュラフが濡れました。使っているエアマット(KLYMIT イナーシャ・オゾン)が穴あき形状なのでシュラフが床に触れてしまうんだよね。
それであまりよく眠れず…悪天候下のテント生活は,ホントにつらいんですよ。
でもこういうのも「孤独と自由の代償」なんだろうなあ。そう思って受け入れています。
夜半過ぎに止むという予報でしたが,雨は弱くなったものの明け方まで降り続きました。
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1日目記録
2024年9月15日
栂池ロープウェイ駅 (7:40) – 白馬岳登山口 (7:50) – 天狗原 (8:50) – 白馬乗鞍岳 (10:05) – 白馬大池山荘 (10:50–11:10) – 船越の頭 (11:55) – 小蓮華山 (12:40–12:50) – 三国境 (13:30) – 白馬岳 (14:15–14:20) – 白馬岳頂上宿舎 (14:45)
休憩を除いた総行動時間 6時間30分
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