福島市の郊外に,「文知摺観音」(もちずり観音)というお寺があります。古い歴史とロマンあふれる物語を秘めたこのお寺は,紅葉の名所でもあります。
このお寺が好きすぎて,今年も訪ねてきました。
去年の文知摺観のお話はこちら
文知摺観普門院は福島市郊外にあります
文知摺観音普門院は福島市の郊外にあって,市中心部から車で15分程度。福島駅東口からバスでアプローチすることもできます。阿武隈川にかかる「文知摺橋」を渡って,もう少し山側に進んだところ。
ここ文知摺観音普門院は,お寺全域が福島市の文化財に指定されています。行基菩薩作とされる秘仏観音像があり,33年に一度ご開帳があるようです。
お寺に着くと,最初に迎えてくれるのが鐘撞き堂。さっそく紅葉に彩られてきれいです。
参道を奥に進みます。境内は紅葉が見事です。今年は夏が暑かったせいか,例年以上に鮮やかに色づいているみたい。
もちろん文知摺観音に限った話ではないけど,青々としていた葉っぱが,秋になるとどうしてこんなに鮮やかな色になるのか,不思議です。
文知摺観音は小倉百人一首の歌枕の地
それでは本堂にあたる「観音堂」にお参りします。観音堂は紅葉に囲まれて,ひっそりと佇んでいます。
観音堂の近くには,河原左大臣が詠んだ歌の歌碑があります。百人一首・第14番として知られている歌です。
みちのくの しのぶもちずり 誰ゆえに
乱れそめにし われならなくに(陸奥で織られる「しのぶもぢずり」の摺り衣の模様のように、乱れる私の心。いったい誰のせいでしょう。私のせいではないのに(あなたのせいですよ))
ああ,もう,きれいだなあ!
河原左大臣は嵯峨天皇の子で,その名は源融(みなもとのとおる)とも。都から派遣された按察官で,源氏物語の光源氏のモデルの一人とも言われているようです。
「みちのくの〜」は源融と村の長者の娘,虎女との悲恋の歌。
そんな歌を心に思いながら本堂を眺めると,いっそうロマンティックな気分になります (^◡^)
源融は虎女に,再訪を誓ってこの地を去ります。虎女は文知摺観音に毎日お参りをしますが,なかなか願いは叶わず,「もちずり石」に融の面影が浮かんだと伝えられています。
その「もちずり石」も観音堂の近くに祀られています。
また「しのぶもぢずり」は現在の福島県信夫地方で作られていた、乱れ模様の絹衣のこと。摺り衣は忍草の汁を、模様のある石の上にかぶせた布に擦りつけて染める技法だったようです。「しのぶずり」などとも言われ,これが現在の福島市あたりを指す「信夫地方」という地名にも残っているんですね。
なんというロマンティックな話!
さらにこれは,その後 福島市周辺が,養蚕と絹づくりで発展していったことにも繋がるわけですね。面白いなあ!
のちにこのお寺は松尾芭蕉や正岡子規といった文人が訪れ,この地にちなんだ俳句,短歌を残しています。
日本最北の多宝塔
文知摺観音の境内を奥へ進みます。途中,「信達第二番札所・文知摺観音」の絵馬がかかっていました。
さらに進むと,一段高くなったところに美しい多宝塔が建っています。
これは日本最北の多宝塔建築なんだとか。杉林と紅葉に囲まれて,静かな雰囲気です。
多宝塔を拝んだら入り口へ戻ります。それにしても本当に紅葉がきれい。午前の日差しに輝いているみたい。
お寺の境内を見ると,福島市街地越しに,冠雪した吾妻連峰が見えるのもまた素敵としか言いようがありません。
空が広いなあ!
おわりに
歴史あるお寺にして,歴史と文学の里でもある文知摺観音。本当に素敵なところです。
紅葉の季節はなおのこと。
全国的に,それほど名を知られた場所ではないかと思いますが,一度訪ねる価値のあるところだと思います。
その境内に立つと,いにしえのロマンに身を委ねることができますよ。
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