南アルプス南部。そこは容易に足を踏み入れることができない山深いところ。
そして山を歩く者に,畏怖と憧れを抱かせる場所でもあります。
僕も以前から「いつかここを歩きたい」とずっと思っていました。
この山域には,三座の3000 m峰が連なっています。聖岳,赤石岳,そして悪沢岳(荒川東岳)。いずれも巨大な山体を持つジャイアントです。
奥多摩から南西を見ると,この三座がはっきりと見えるのですが,「すっごく遠いのに,こんなにデカく見える!」と圧倒されるのです。
そもそも,南アルプスの正式名称は「赤石山脈」。赤石岳を含むこの山域は,南アルプスの盟主と言ってもいいでしょう。実際に,ここにはいかにも南アルプスらしい,重厚な山が累々と連なっています。
標高は,悪沢岳が3141 m (日本第6位),赤石岳が3121 m (日本第7位),聖岳が3013 m (日本アルプス最南端の3000 m峰) です*1。
そんな山々。聖岳から入って赤石岳,悪沢岳。この三座を3泊4日で歩いてきた記録です。
…ひとことで言って,いろいろとすごかった!
*1 日本最南端の3000 m峰は富士山です
奥静は遠い
これらの山は,静岡県が北にピョーンと飛び出した「奥静(おくしず)」と呼ばれるところにあります。
アプローチは静岡からすることになるのですが,これがとにかく大変!
夏には大井川水系の上流にある畑薙第一ダムの近くに,登山者用の臨時駐車場が設けられるのですが,ここに辿り着くのが一苦労。静岡から3時間以上の道のりを車で走らなければなりません。しかも曲がりくねった細い山道になります。
静鉄バスや毎日アルペン号などのバスによるアプローチも可能ですが,アクセスに難があり,今回は車で向かうことにしました。長い縦走の後には温泉に入ってから帰りたいし(でも後から書きますが,やっぱりバスで行ったほうが良かったかも…と思っています)。
畑薙の駐車場から先は,東海フォレストの送迎バスに乗って,登山基地である椹島(さわらじま)まで行くことになります(国立公園内のため,自家用車は入れません)。
椹島へ行くには…
この山域を歩くには,もう一つ特殊な事情を考えなければなりません。
テント泊による縦走をメインに行う人も多いでしょうが,畑薙駐車場から椹島への送迎バスに乗るには,この山域内の山小屋(以下のリストにあるもの)に,最低一ヶ所泊まる必要があるのです。
- 椹島ロッヂ,千枚小屋,荒川小屋,赤石小屋,熊の平小屋,百間洞山の家,赤石岳避難小屋,中岳避難小屋
最初,僕はこの話を聞いて頭の中に「?」が浮かんだのですが,椹島へのバスは形式上「山小屋への送迎バス」という扱いになっていると聞いて,ストンと腑に落ちました(実際料金は山小屋の宿泊料のみで,バス代を別にとられることはありません)。
なお山小屋に泊まらずに縦走することは,一応可能ではあります。ただしその場合畑薙から椹島まで,林道を5時間かけて歩かなければなりません(さらに言うと,この間の林道は落石の巣になっています)。これはさすがに避けたいですね。
このシステム,面倒だと感じるでしょうか。
しかしこの山域一帯は特種東海フォレストという会社の所有林になっており,山小屋と送迎バスの経営もこの会社が行なっているのです。
そして行ってみるとよくわかるのですが,東海フォレストがこういった管理をしてくれているおかげで,南アルプス南部には静けさと原始の香りが色濃く残っています。
昔からずっとここを管理してきた東海フォレストには,個人的に感謝の気持ちが強いです。
今回の計画
聖,赤石,悪沢。この三山を歩くにはどちらから回るか,どこに泊まるか,そしてそのうちのどこを小屋泊にするかを考えなければなりません。
思案を巡らせたのち,以下のような計画を立てました。
- 聖→赤石→悪沢の順で北上する
- 聖沢登山口から入山,椹島へ下山
- 1泊目は聖平小屋(テント泊),2泊目は百間洞山の家(テント泊),3泊目は中岳避難小屋(小屋泊)
少し迷ったのが3日目で,悪沢岳を越えて千枚小屋まで脚を伸ばすことも考えました。けれども夏の南アルプスは,午後になるとガス(または雷雨)に包まれることが多いんですよね。3日目に千枚小屋まで行くと,悪沢岳の通過が午後になってしまいます。
一方上記の計画だと,聖岳,赤石岳,悪沢岳のいずれも,朝のうちに頂上に立てますね。それで中岳避難小屋泊まり*2。中岳避難小屋にはテント場がないので,必然的に小屋泊はここで行うことになります。
中岳避難小屋に泊まった場合,最終日は悪沢岳を越えて椹島まで一気に下山する必要があります。バスに遅れないように,そんなにのんびりはしていられません。
バスに遅れたら5時間の林道歩きが待っているのでね…。
山小屋と送迎バスの予約は,このサイトから行うことができます。テント泊は,2024年は予約不要です(年によって変わるかもしれないので要確認)。
*2 「避難小屋」という名前ですが,夏山期間中は管理人が入って営業小屋となります
畑薙第一ダムへ向かいます
それでは入山すべく,いざ畑薙の駐車場へ向けて出発です。
東京の自宅を出たのが7月30日の午後10時。首都高ダンジョンを抜けて東名高速を進み,静岡インターで高速を降ります。
問題はここから。
静岡市街地を抜けて国道362号線に入り,続いて静岡県道77号線,388号線,さらに60号線(南アルプス公園線)と辿ります。この間,2車線になる区間が時々現れるものの,それ以外は「酷道」とされる狭隘な急カーブの連続。
これが3時間以上にわたって続きます。
おまけに道には,大きな石や木の枝が転がっています。さらに時々シカが飛び出してくるのでヒヤヒヤです。
やっとのことで畑薙駐車場にたどり着いたのは4時半。もう夜明け前です。たどり着いたらすでにゲッソリでした。
畑薙駐車場にはトイレと水場(沢の水)があります。携帯の電波は,アンテナが1本程度 (auで)。
駐車場は150台程度のキャパがあるので,止められないということはないかと思います(山小屋のキャパが限られているので,極端に多くの人が押しかけるということはないでしょうし)。
椹島へ向かう送迎バスは7時半出発です。2時間くらい仮眠しましょうかね,zzz…。
バスに揺られて椹島へ
6時半,眠い目を擦りながら起き出しました。この深い山に入るにあたって,今回はけっこう緊張感がありました。こんなに緊張したのは,初めて穂高に行ったとき以来かも。
椹島行きのバスは2台体制で,一台は予定より早く,7時くらいに出発するみたい。僕は予定通り7時半発の方に乗ることにします。
入山届を提出して,予約の確認をしたのち,小型バスに乗り込みました。
バスは落石の巣となる林道を走ります。そのため乗客は,バスに乗り込む際に「これをかぶって乗ってね」とヘルメットを渡されます (^◡^)。
畑薙駐車場から椹島まで,1時間弱の道のりです。何台かあるバスのナンバーは,いずれも南アルプスの山の標高になってるんだとか。僕が乗ったのは「3141」,悪沢号ですな。
バスは大井川に沿って林道を登っていきます。道路上には岩がゴロゴロ。
そして車窓から見ると,山側は落石防止ネットが落ちてきた岩でもっこりと膨らみ,ダム湖に注ぐ沢はどこも夥しい土砂で埋まっています。これは…。
山が生きている。地球が生きている。
そんな原始の香りが色濃く感じられます。アプローチでこういうのを感じたのは,飯豊連峰以来かも。
そもそもこれから登ろうとするピークの一つは悪沢岳,またの名を荒川東岳ですからね。この辺りの沢がいかに荒ぶる川であるのか,その地名からも想像がつこうかというものです。
林道のガードレールも落石にやられたのか,この通り。
フルボッコじゃないですか。これはすごいな(語彙)。
また一ヶ所ダム湖に注ぐ沢から土砂が溢れ,広い平地を作っているところがありました。これを「畑薙」というんだと運転手さんの解説。そうだったのか!
また運転手さんは「落石がすごいから,ここを歩いて山に入るのはオススメできない」とも言っていました。まあ,落石以前に5時間以上を林道を歩くのは遠慮したいですが。
ともあれ,これからすごいところに入っていくんだということをあらためて実感するのでありました。
いったんまとめ
南アルプス南部の山はアプローチが大変!しかし山の中はそれはそれは素晴らしいものでした。
次回に続きます。
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