
かつて日本の山を駆け巡っていた狼,山の奥深くに棲んでいる人智を超えた大いなるものたち。こんな存在を,精彩なタッチのペン画で描き続けている画家が玉川麻衣さんです。
ありがたいことに,玉川さんとはX(旧Twitter)で知り合って以来親しくしていただいていて,毎年行われる個展にもお邪魔してきました。
今年の個展のタイトルは「常夜神楽」。七ツ石神社の御眷属(狼…お犬様)を題材にした創作神楽が行われたのです。
本当に残念なことに,御神楽は都合がつかずに見ることができなかったのですが,新作の絵を見て玉川ワールドに浸ってこれたのでとてもよかったです。また玉川さんのお話を伺うこともできたのでうれしかったです。
個展会場へ
個展の会場は六本木にある「ストライプハウス・ギャラリー」。僕は普段六本木に行くことってほぼないんですが,玉川さんの個展はよくここで行われます。ナウいな!

中に入ると,日曜日ということもあって大賑わい。最初に迎えてくれたのは,丹波山村のTさんとご一緒に作られた絵本「蒼い夜の狼たち」に使われた一枚です。

賑やかな部屋の中でも,この絵の中に自分が引き摺り込まれて,一気に山の静寂に包まれでいくのを感じました。
そんな絵の中の何枚かを紹介します(写真を撮ることは,玉川さんご本人に承諾をいただいています)。
狼絵2枚
玉川さんが描き続けている奥多摩の狼。今回も数枚の狼絵が展示されていました。その中から,「星が降る9」と「謐の声7」です。
星が降る9
個展の案内ハガキにも採用された一枚。七ツ石山の森で狼が遠吠えを交わしています。すると,それに応えるように,空から星が降り注ぐのです。
お犬様がいるのは,七ツ石神社のお社の前です。ここには阿形と吽形の狼像が,御眷属として祀られているのですが,彼らは時々こうやって星を降らせているのでしょう。

お社の向こうには夜の森。森がたたえた暖かい闇に目が奪われます。この絵を見ていると,この山懐にまた帰っていきたくなるのです。
謐の声7
タイトルになっている「謐の声」という言葉は,以前の玉川さんの個展のタイトルにもなっていました。
山の深いところ=夜の深いところ。月の光に応えるように狼が声を上げると,静寂がひっそう深くなるような気がします。
それはまさに「謐の声」かと思います。

この絵では岩や木の枝に雪が積もっています。狼の息も白くなっていることでしょう。
雪が積もると,音が吸収されて静寂がいっそう深くなることを,北海道人の僕は知っています。この絵を見ていると,狼の声が響いた後の森の静かな空気に,自分が包まれていくようです。
あわいにいる者たち
玉川さんはよく,「この世とあの世のあわいにいる者たち」を描かれます。そこには人間の情念が具現化しているかと思えば,私たちの知らないところで生き続ける (けれども時に山の奥で出会う) 何者かがいます。また私たちの力の及ばない存在が私たちに近いところに存在していることも教えてくれます。
骨女10
朽ちていく自らを見つめながら,人を待ち続ける果てしない時間。あまりにも悲しい定めですが,骨女の周りには花が舞い降りており,不思議な美しさで満たされています。

骨女のあまりにも哀しげな眼差し。「一途」という言葉がこれほどふさわしい存在ってあるでしょうか。
ちょっと怖いけどその美しさに魅入られてしまう絵でした。
濡れ女10
深い山を歩いていると,生い茂った木々の葉やその木々に絡みつく蔓に,濃密な生命のエネルギーを感じることがあります。
それは,私たちの存在とは無関係に息づく世界です。

玉川さんの描く「濡れ女」は,そんな存在をまざまざと見せてくれます。すごい表現。
濡れ女の下半身にはウロコが光りトグロを巻いています。そう,山の奥で木々に巻き付く野生の藤のように。
昇龍図
もうすぐ夏ですね。積乱雲がモクモクと発達して雷が鳴る時,その中では龍が体をくねらせているに違いありません。その身体が擦れ合って,その摩擦で静電気が発生するんです。

龍がトグロを巻くその下には富士山が聳えています。龍はかなり上空まで積乱雲を発達させたようです。
龍が見上げる空は深い青。龍の眼には,夏の太陽が映っていることでしょう。
新キャラ?猫又とたぬき
猫又
狼,カエル,狐…。玉川さんの描く森の仲間たちに,新キャラが誕生しました。猫又です!
時おりこの世ならぬものの眼光が見えますが(左側の猫又なんかね),二又に分かれた尻尾を振りながらリズミカルに踊り,遊ぶ彼らはかわいいですね。

妖怪なんですけどね,山の奥で,彼らに会ってみたいなあ。そしていっしょに踊ってみたいなあ!いっしょに踊っていて,ふと我に帰ったら3日くらい経ってたりしてね。
左下には,ネズミに姿を変えられてしまった僧侶が法衣を着ています(頼豪だっけ?)。右下にはサワガニもいっしょに踊ってるんですね。
七化八化
そしてもう一人の新キャラ,たぬきも登場しました!これはうれしいなあ。
月明かりの下で,狐と狸が化けながら戯れあっています。狐火で照らされた彼らを囃し立てているのはカエルたち (^◡^)。

キツネの美しいけどちょっと胡散臭いところ,たぬきの愛嬌あるけどどんくさそうなところが不思議な躍動感と共に描かれています。
いやあ,楽しいですねえ。
秋祭り
そして,見ていて楽しい気持ちになる極めつけの絵がこれ,「秋祭り」です。この絵については,玉川さんが解説してくれました。
ニンゲンのお祭りを見ていた森の動物や物の怪たちが,「おれたちもお祭りをやろう」と集まってきた。そして猫又,タヌキ,ムジナ (アナグマ),イタチ,キツネ,そして今は絶滅していなくなってしまったニホンカワウソが賑やかに踊っている。人間には聞こえないけど,確かに賑やかな音楽がかかっている。
実りの季節。カエルたちは笹の葉を振り,ネズミたちも鬼灯やあかまんまの枝を持って参加している。背後には葛が花を咲かせている
そんな光景だってね。

秋の山で夜を迎えて耳を澄ませば,微かにそんな音楽が聞こえてくるかもしれないですね。そして彼らの手拍子足拍子も響いてくるかもしれないですね。
そんな想像を巡らせると,何だかうれしくなってくるなあ。早く秋の山にいきたくなってきます。そうそう,この絵ね,頼豪が担いでいる鬼灯の色がとてもきれいだったんですよ。
火舞
キツネが「食えないやつだなあ」って思うのは,いつもはちょっと胡散くさい雰囲気を漂わせてるくせに,時にこんな凛とした姿を見せるところですかね。九本に分かれた尻尾を疾風に靡かせて,炎を従えて舞っています。
真四角のカンバスを斜めに使った大胆な構図です。

森の安寧を乱そうとするものから,彼らの世界を守っているのでしょうか。そんな大切な世界が森深くに広がっているのでしょう。
おわりに
ここのところ個人的にちょっと大変で心が穏やかではなかったんですが,玉川さんの絵に向きあって,自分が山の空気に包まれたような気持ちになりました。
自分の中に涼しい風が吹いたから,夏をなんとか乗り切れるかもね。
次こそは御神楽を見ることができますように!
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こんなTシャツが!これを着ていたら,カエルに姿を変えられちゃうかも!?



