前回の記事,「そうだ,赤道儀作ろう!(その2):モーター駆動型ポータブル赤道儀の自作(前編)」の続きです。
前回はステッピングモーターを回す回路を作り,モーターの回転を減速する歯車を組み合わせたところまで書きました。これを赤道儀として山に担ぎ上げて使うには,一つのパッケージに収める必要があります。カメラを乗せるためのマウントもつけなければなりません。
当初ここから先は機械的な作業だと思っていたのですが,実際にやってみると作業量が多くてけっこう大変でした。
赤道儀の筐体を作ります
赤道儀本体は,歯車などの機構がアルミ板で作ったボックスに収まるようにします。ボックスの側面には4 cm幅(厚さ 3 mm)のアルミ板を切って用いました。赤道儀の四隅にはRをつけて持ち運びしやすくしたいので,アルミ板を金属加工用のヤスリで削りまくりました。また必要な位置にドリルで穴を開けまくりました。ゲシゲシゲシ,ドルルルルゥ〜!
こうして加工した側板をベースプレートにビスで固定していきます。
ステッピングモーターを回すための基盤は,赤道儀本体とは別のコントローラに入れ,モーターとコントローラとはLANケーブルでつなぐことにしました。そこで基盤とモーターをつないでいたケーブルを切断し,LANコネクタディップ化キットにはんだ付けして,筐体に固定します。もちろん側板のうち一箇所には,LANケーブルを挿す穴を開けておく必要があります。
なおLANケーブルは8線で,ステッピングモーターのケーブルは6本あるので,適当にLANコネクタの六ヶ所にハンダ付けすればOKです。この際,使うLANケーブルがストレートケーブルなら,基盤側とモーター側のケーブルをコネクタの同じ位置に繋ぐようにします。クロスケーブルの場合は…ややこしくなるので,ストレートケーブルを使うのをお勧めします。
僕はといえば,基盤とモーターをLANケーブルで繋いだところ,ステッピングモーターが逆回転しなくなってしまいました。例によって,どこかハンダがちゃんとついていないのかもしれません。赤道儀の逆回転は,南半球で星空撮影をするときに使いますが,当面南半球に行く予定はないのでそのままにしておきました(笑)。
上板をつけるところまできました!
最後に上板をつけます。これも3 mm厚のアルミ板です。この板には所定の位置に,極軸を通すためのベアリングを付けておきます。
上板の固定には,アルミアングルを小さく切ったものにタップを切って,これにビス止めしていますが,ここに使うアングルだけは鉄製にした方がいいかもしれません。アルミ板に切ったタップ(しかも3 mmビス用のピッチが細かいもの)は強く締め付けるとネジ山が崩れそうなので…。
また工作中にどうしてもアルミ板に傷がついて見た目が良くないので,上板にはカッティングシートを貼りました。時々シートの色を変えて気分転換できるかも(?)
上板には,一箇所のぞき窓を開けて,閉じた状態でもモーターの回転速度をチェックできるようにしておきました。
“雲台台”を作ります
次に,極軸にカメラ雲台を乗せるための台(雲台台というのかな?)をつけます。雲台台には厚さ10 mmのアルミ板を用いました。これに極軸を通すネジ穴(極軸に合わせて8 mmφ)と,カメラ雲台の固定ネジを通すネジ穴(1/4インチφ)を開けて雌ねじを切ります。そしてカメラ雲台固定ネジを付けてから,極軸にダブルナットで固定しました。
…が,何度かテスト撮影したところ,撮影中にカメラの重さで雲台台が緩んでしまうことがあったので,(ダブルナットに加えて)雲台台に切れ目を入れて極軸をはさみつけるように改造しました。
…が,それでもまだ緩みが出ることがあったので,ダブルナットの間にゴムワッシャを挟むことで雲台台を固定することができました。この辺りはまだ改良が必要かもしれません。
基盤・電池をコントローラに収めます
あとは基盤と電池を収めるコントローラ作りが残っています。コントロールボックスには,適当なお弁当箱でも使おうかと思っていたのですが,意外にちょうどいい大きさのものがなく,秋葉原でアルミケースを買ってきました。このケースにスイッチやLANケーブルを取り付ける穴を開けて使います。
まず,基盤はアルミケースにそのまま接触させるとショートしてしまうので,木の板に取り付けた上で両面テープでケースに固定しました。また基盤から出ているモーター駆動用ケーブルは,LANケーブルコネクタにハンダ付けしてケースに固定しました。
続いて電池ボックスと基板の間に波動スイッチ(どうしてこんな名前なんだろう?)を入れます。さらに基盤上についているモーター駆動用のタクトスイッチを外し,その位置にコードを介してロッカースイッチを接続しました。そしてこれら2つのスイッチをケースに取り付けます。そのために,ケースに穴を開けてヤスリで削ったり…という地道な作業がまたまた必要でした。
これらのスイッチのうち,前者をonにすると電源が入ります。そしてその数秒後に後者のスイッチを入れることで,ステッピングモーターが回転し始めます。
電池ボックスはケースの中にちょうどよいスペースができたので,そのまま入れ,ケースの中でガタつかないようにスポンジの切れ端で押さえています。
なお電源は乾電池6本,9Vです。できるだけ軽くしたいので,一度6V(乾電池4本)で動くかどうか試してみたのですが,トルクが足りないようでした(ステッピングモーターは電圧を変えても回転速度は変わらず,トルクが変わります)。
極軸望遠鏡も取り付けます
極軸望遠鏡の取り付けには,手動赤道儀メジロ号で使ったL字型金具をそのまま流用しました。この部品は赤道儀本体の底にボルトで止めるようにしてあります。
最初は極軸望遠鏡がわりに,以前と同じ塩ビ管を使っていたのですが(下の写真),最近は極軸を正確に合わせたいので,反射望遠鏡のファインダーを外して取り付けています(アイキャッチ画像)。塩ビ管よりも少し重いんですけどね。
こうして取り付けた極軸望遠鏡は赤道儀本体の極軸と平行になっているので,赤道儀をカメラ三脚に乗せて望遠鏡(または塩ビ管)の視野の中心に北極星を導入すれば,極軸=カメラの回転軸が地軸と平行になるという仕組みです。
これで完成です!
ここまでで一通りの工作が終わりました。カメラを乗せてもちゃんとモーターが回ることも確認しました。
最後にステッピングモーターの回転速度を微調整します。前回の記事にも書いたように,歯車の減速比が1:1875ですので,モーターが46秒で一回転するようにすればカメラが一日一回転になります。そこで一旦赤道儀本体を開けて,モーターの回転速度を計りながら,基板上の半固定抵抗のダイアルを回して回転速度を調整します。調整が終わったら,歯車にグリースも塗っておきました。
これで赤道儀2号機は完成です!ステッピングモーターの動作チェックにがんばってもらったふくろう君は,テプラに印刷してコントローラに貼り付け,この赤道儀のマスコットになってもらいます。というわけで,2号機の名前は「ふくろう号」です (^ ^)
完成後本体の重さを測ってみたところ,約770 gでした。「一眼レフカメラ一台分くらいの重さに抑える」という目標はクリアできたかな,と思います。
山で使ってみました
ふくろう号が出来上がった後,何度か山に担ぎ上げてテスト撮影を行ないました。その都度ギアに緩みがあったり,雲台を乗せる台がカメラの重みで緩んだりと少し苦労しましたが,何度かの調整を経て,ほぼ問題なく使えるようになりました。以下にテストの過程で撮った写真を3枚ほど載せておこうと思います。
ふくろう号は自動ガイド+ウォームギア方式なので,同じ構図で数枚撮影してスタック処理ができます。それで手動ガイドで一枚撮りしていた時よりも,S/N比の良い写真が撮れるようになりました。2枚目のオリオン座付近の写真のように,淡い冬の天の川もよく写りました。
おわりに
こうしてモーター駆動型の赤道儀2号機,ふくろう号が出来上がりました。仕事の合間に時間を見つけつつ,試行錯誤しながらの工作だったので,足掛け半年くらいかかっての完成となりました。予定よりも長くかかってしまいましたが,それだけ長く工作を楽しむことができたので良かったと思います。
工作しながら感じたのは「小型化の技術ってすごいな」ということです。工作精度が高くないと小型化ってできないんですね。この赤道儀も本当はもう一回り小さくしたかったんですが,工作精度(要するに僕の技術)が足りなくて,このサイズになりました(本体は 10 cm x 10 cm, 高さ4.6 cm です)。いま手の中にあるスマホとか,こんなに小さく作ってあって,すごいなって思います。まあ素人の工作と同列に比べてはいけないんでしょうが (^ ^;)
そして肝心の使い勝手ですが,自動追尾はやっぱり楽ですね。手動追尾だと,撮影中はじーっと時計とハンドルを睨んでいる必要がありました。でもふくろう号の自動追尾だと,撮影しているあいだ自分の目で星空を眺めていることができるんです。これが一番違うところでしょうか。星空を一層楽しめるようになったと思います。そして何よりも,自分で作った装置で星の写真を撮れるというのはとても楽しいです。
次の記事では,完成したふくろう号を使って撮った写真をいくつか紹介したいと思います。
後日,ふくろう号を改造して使い勝手を向上させました。↓ こちら
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