市街地から離れた山などで,きれいな星空の写真を撮るのはとても楽しいです。でもひとつ問題があります。
夜空の星は日周運動によって動いています。この動きは思いのほか速く,露光時間を長くとると星は線になって写ります。暗い星まで写すために長時間露光をして,なおかつ星を点として写すためには,カメラを星の動きと同じ速さ(一日一回転)で回してやる必要があります。この目的で使う装置が赤道儀です。
赤道儀は手軽に持ち運べる小型のもの(ポータブル赤道儀)から,大型の天体望遠鏡を乗せるゴツイものまで,様々なものが市販されています。でもそれなりに高価です。そこで赤道儀を自作することができれば,コストの面で助かりますし,何より工作自体も楽しいです。
実は僕がとっている星空写真は,全て自作の赤道儀を使って撮影しています。
手動ガイドはちょっとつらい
以前,手動ポータブル赤道儀「メジロ号」の製作記事を書きました。これは時計とにらめっこしながらハンドルを一分間に一回転させると,星が追尾できるというものです。
この赤道儀は簡単に作れるし,いろいろなところで頑張ってくれたのですが,だんだん手動ガイドが辛くなってきました…(笑)
・音が静か
— Sun太 (@SunSun_fine) 2015年1月18日
・電池切れの心配がない
・モーターが無い分,ちょっと軽い
・そして何よりも…忍耐力がつく
手動ガイドって最高(震え声)
また星空写真では同じ構図で何枚か撮って,それをスタック(重ね合せる)してS/N比を上げるということをよくやるのですが,これが手動ガイド&タンジェントスクリュー方式ではやりにくいのです。
そこで,モーター駆動で自動ガイドできる赤道儀の製作に取りかかりました。2号機です!
赤道儀2号機の製作に取り掛かる!
赤道儀2号機の製作方針は以下の通りです。
- ステッピングモーターを使って自動ガイドできるようにする
- ウォームギア方式にする
- 一眼レフカメラ一台分くらいの大きさ・重さに抑える
- ナノ・トラッカー以上の追尾精度を出す
- 予算は一万円
問題は,僕に電気回路工作の経験があまりないことです。アセンブラ言語を全然知らないけど,ステッピングモーターをコントロールできるのかしらん?まあやってみましょう (^ ^)。
ステッピングモーター,回せるかな?
まず秋葉原に行って,秋月電子でPICステッピングモータードライブキットとギアヘッド付きの小型ステッピングモーターを買ってきました。他にも電子部品をいくつか。
ステッピングモーターはマイコンで回転速度をコントロールできますが,通常のDCモーターとは異なり電源をつないだだけでは回りません。
まずドライブキットの回路図にしたがって,基盤にマイコンやトランジスタ,抵抗,コンデンサー,オシレータ等をハンダ付けしていきます。そしてモーターにつないでみました。スイッチを入れると…回らない!
これは前途多難です。回路を見直してみましたが,うーん…間違っていないようです。そこでハンダ付けが怪しいところがないか念入りに見直しました。再度スイッチを入れたら…無事回りました!ハンダがちゃんとついていないところがあったようです。
肝心の回転速度は,一回転3.5秒くらいでした。赤道儀は最終的に一日一回転にする必要があるので,モーターの回転はもう少し遅くしたいところです。
抵抗とコンデンサーを取り替えます
ステッピングモーターの回転速度を遅くするには,
- 基盤に乗っているコンデンサーを容量の大きいものに取り替えます
- 半固定抵抗も抵抗値の大きなものに変えてやります
まず,コンデンサーは元々キットに入っていた100 μFのものを470 μF / 6.3 Vの電解コンデンサーに取り替えました。また半固定抵抗も元々ついていた10 kΩのものを50 kΩのものに取り替えました。こうしてステッピングモーターの回転を,一回転数十秒まで遅くすることができました。なお半固定抵抗は抵抗値を調整できるので,これで後にモーターの回転速度を微調整します。
これらの部品を調達するために,秋葉原の電子部品のお店をいくつか回りました。なかなかディープな世界ですね。
減速機構を作ります
モーターを回す目処がたったので,次に歯車を組み合わせて,これを一日一回転まで減速します。今のところモーターが数十秒で一回転なので,これを一日一回転にするためには,千数百分の一まで減速する必要があります。
そこで平ギア一段,ウォームギア二段で減速することにしました。
- まずモーターの軸に16枚歯,次のウォームギアの軸に30枚歯の平ギアを付けて,1/1.875に減速します
- 続いてこれを20枚歯のウォームホイール/ ウォームギアで減速します
- さらに50枚歯のウォームホイールで減速します
これで最終的にモーター→極軸の減速比は 1/1875 となりました(1.875 x 20 x 50 = 1875)。
したがってステッピングモーターの回転速度を一回転46秒にすれば,極軸が一日一回転になる計算です(46 x 1875 = 86250 秒 = 23.96 時間)。
歯車とそれを回すための軸受け等はモノタロウで注文しました。こんな個人の工作に使う小口の注文も受け付けてくれるので助かります。現場の味方モノタロウ〜♪
極軸にはホームセンターで購入した8 mmΦの真鍮の丸棒を使います。軸受けははじめフランジブッシュ(滑り軸受け)を使うつもりで注文したのですが,けっこう遊びが大きかったので,小型のベアリングを追加で注文しました。
ウォームギアの軸受けやモーターを固定するブラケットは,アルミアングルおよびコの字型のアルミ材(アルミチャンネル)を用いて作りました。軸受部にはベアリングを入れて,ウォームギアや極軸が滑らかに回転するようにします。またウォームギアが軸方向にずれないように,適宜シャフトカラーを使って固定しました。
アルミアングルやアルミチャンネルで作った部材にはタップを切って,3 mmΦのビスで10 cm x 10 cmのアルミ板(厚さ3 mm)に固定していきました。なおアルミの部材やこれらを固定するビスは,全て近所のホームセンターで揃いました。
ネジを通す穴は手持ちの電動ドライバ/ドリルで開けたのですが,なかなか精度よく加工できません。「ボール盤が欲しい!」と何度も思いました(旋盤やフライス盤も欲しくなりました)。
そう言えば,一度ドリルの刃を買いにホームセンターに行ったら,「スパッとドリル」というのが売られていて,「スパッタリング(アルゴン原子を高速でぶつけることにより金属原子を飛び出させる方法)で穴を開けるドリルができたのか!?すごい!」と一瞬思ったのですが,「スパッとよく切れるドリル」ということでした (^-^;)。でも買ってみたら,確かに切れ味の良いドリルビットでした。
アルミアングル等の部品は,歯車の噛み合わせを見ながら固定して行くので,現物合わせで穴あけの位置等を決めていきます。このためこの段階には結構時間がかかりました。
極軸にウォームホイールを固定するためのネジ穴を開けている時にドリルの刃が折れるハプニングなどもありましたが,なんとか極軸まで配置できました。この段階でモーターがスムーズに回ることを確認してホッと一息です。
これで電気回路と減速機構という赤道儀の心臓部はできあがりました。続いて赤道儀のパッケージングとコントローラを作ります。
ここまでで赤道儀製作の山場は超えたつもりでしたが,このあとの作業量は膨大なものになりました。
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