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そうだ,赤道儀作ろう!(その1):予算500円で作る手動ポータブル赤道儀

以前,「固定撮影で星空を撮ろう」という記事を書きました。空がきれいなところなら,固定撮影でも十分にきれいな星景写真が撮れると思います。でも撮っているうちに,「もっと暗い星まで写したい」「天の川をもっと淡いところまでくっきり写したい」と思うことがあるかもしれません。

また固定撮影ではカメラのiso感度をかなり上げて撮影するので,カメラによってはノイズが気になることもあります。ノイズを減らすためにiso感度をあまり上げずに,星をたくさん写したいこともあるでしょう。

これらのことを実現するためには,より長い露光時間を取る必要があります。固定撮影では20〜25秒くらいが露光時間の限界ですが(これ以上シャッターを開けていると,星が線になって写ります),これより長い露光時間を取った上で星を点として写すためには,カメラを星の日周運動と同じ速さ(1日一回転)で回してやる必要があります。この目的で用いる道具が赤道儀です。

赤道儀を作っちゃおう!

赤道儀は様々なものが市販されていますが,それなりに高価です。そこで,ここはひとつ自作してしまいましょう。予算は500円!ただし手動のポータブル赤道儀(略してポタ赤),しかも木製です。

ゆっくりゆっくり動いて一日で一回転する星に正確にカメラの動きを合わせる…と考えると,難しそうに思えますが,実際にはかなり簡単な装置でこれを実現することができます。

どうやって星を追尾するか–––タンジェントスクリュー

赤道儀を作るためには,まず「一日一回転」をどうやって実現するかを考えなくてはなりません。これには「ウォームギア方式」と「タンジェントスクリュー方式」の2通りがあるのですが,ここではよりシンプルな後者のやり方で行きます。タンジェントスクリュー方式…名前は何やら難しそうですが,その構造は実にシンプルです。

ここではその原理を解説する前に,まず全体図を示すことにします。図のように二枚の木の板A, Bがボルトでとめられており,板Aはこのボルトを軸として回転することができます。また板Bにはナットが埋め込んであり,このナットを通っている小ねじをねじ込んでいくことで,板Aを押して回転させてやります。

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赤道儀の全体図。板Aは板Bに極軸ボルトで止まっていて,駆動ネジで押されて回転する

ここで大切なのは回転軸のボルト(以下,この回転軸を“極軸”と呼びます)と板Bに埋め込まれた小ねじ(以下,この小ねじを“駆動ネジ”と呼びます)との距離,および駆動ネジのピッチ(ネジ山の間隔=ネジが一回転する間に進む距離)です。極軸と駆動ネジの距離をa,駆動ネジのピッチをbとした場合,駆動ネジを一回転させると,その間に板Aが回転する角度θは,tanθ = b/a で与えられます。

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極軸と駆動ネジの距離をa,駆動ネジのピッチをbとした場合,駆動ネジを一回転させると,その間に板Aが回転する角度θは,tanθ = b/a で与えられる

さて,星は一日に一回転,つまり360°回転するので,1分間に回る角度は360 ÷ 24 ÷ 60 = 0.25° です。ですからb/aの値が tan 0.25° = 0.00436 となるようにaおよびbの長さを決めてやれば,駆動ネジを1分間に1回転させることで,板Aが星と同じ速さで回転することになります。このとき板Aにカメラを取り付けておけば,カメラが星と同じ速さで回転するのです。

ところでねじのピッチはjis規格で決まっています。例えば直径6 mmのネジのピッチは1.0 mm,5 mmφのネジのピッチは0.8 mmです。ですから駆動ねじとして直径6 mmのネジを使った場合は,aの長さを 1.0/0.00436 = 229 mm にすれば,駆動ネジを1分間に1回転させることで星の追尾ができることになります。直径5 mmのネジを使うなら,aの長さを 0.8/0.00436 = 183 mm にすればよいということですね。

赤道儀を具体的に設計します

ということで基本的な考え方は決まりました。次は具体的な設計です。

ここでは駆動ネジとして5 mmφ (ピッチ0.8 mm) のネジを使いました。この場合極軸と駆動ネジの距離が183 mmとなりますから,赤道儀全体の長さも25 cm 程度に収まります。これだけコンパクトなら,山に担ぎ上げて星を撮るのも楽ですね。

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赤道儀設計図。極軸-駆動ネジ間の距離は正確に

大雑把な設計図を上に示します。赤道儀は,部材A, B1, およびB2の三枚の板からできています。サイドを斜めにカットしてあるところや上部を丸くしてあるのは趣味の問題なので,手間をかけずに作るなら長方形の板2枚を組み合わせるような形状でも問題ありません。

必要な材料と道具

材料

木部には 1 x 4(ワンバイフォー:厚さ19 mm, 幅90 mmの規格です)のSPF材を使います。長さは60 cmあれば十分です。多分これが一番安い木材ですが,手元にベニヤ板などがあれば,それを使ってもいいでしょう。

金属部品で必要なものは

  • 極軸となる6 mmφボルト(長さ50 mm)とナット各1,ワッシャーx2
  • 駆動ネジとなる5 mmφボルト(長さ50 mm)とナット各1,袋ナットx1,ワッシャーx2
  • 駆動ネジを受ける鬼目ナット(内径5 mm)x1
  • 木ネジ数本
  • 1/4インチボルト(長さ25 mmくらい)x1
  • アルミ板(3 mm厚)50 mm x 50 mm 程度1枚
  • L字型金具 x1
  • 太さが2〜3 cmで長さが12 cmくらいの塩ビチューブ x1。

これらは全てホームセンターに行けば手に入ると思います。木材が100円くらい,金物類が400円くらいで揃うでしょう(僕は,手元にあった木材を使ったので,350円くらいで作れました)。

工具

ノコギリ,電動ドリルドライバーが必要です。僕はかんなも使いましたが無くてもできます。他にサンドペーパーがあると仕上がりがきれいになります。それから鬼目ナットを木材にねじ込む際に,六角レンチを使います。

それでは作りましょう–––部材の加工

まず設計図にしたがって,部材A,B1およびB2を切り出し,穴を開けます。ここで,板Aに駆動ネジの頭が当たる面および板B1にB2を取り付ける面(設計図に赤で示したところ)はできるだけ正確な平面になるように気をつけます。僕はここを切るときにはソーガイド(ノコギリ用の定規みたいなもの)を使いました。また極軸と駆動ネジが通る穴の位置は,正確にする必要があります。

部材B2に開けた穴(設計図で8 mmΦになっているところ)に,駆動ネジを通すための鬼目ナットをねじ込んで固定します。この穴のサイズは,鬼目ナットの袋に書いてあります。

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これが鬼目ナット。内側にはボルトを通すための雌ネジが切ってあり,外側には木材にねじ込むための雄ネジが切られている

僕が使った鬼目ナット(5 mmφボルト用)の場合,これをねじ込むための穴の直径は7.7ー8 mmと指定されていたので,それに合わせて板B2に 8 mmφの穴を開けました。そして木工用ボンドと木ネジで,B2を板B1に取り付けます。

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部材B2に鬼目ナットをねじ込み,木ねじでB1に固定します

駆動ネジには,これを回すためのハンドルを取り付けます。このハンドルにはインスタントコーヒーのふたを使いました。またこのハンドルには,60°ごとにビニールテープで印を付けておきました。これで10秒に一目盛の速さでハンドルを回せば1分間に一回転です。

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駆動ネジにはハンドルとしてコーヒーのフタを取り付けました

L字金具には木の切れ端を瞬間接着剤で貼り付けました。ここに極軸望遠鏡がわりの塩ビチューブがつくことになります。

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L字金具に板の切れ端を接着しておきます

もう一つ,アルミ板には真ん中に穴を開け、1/4インチのタップを切っておきます(あとで述べるように,カメラ用三脚に取り付けるためです)。僕はこの時1/4インチサイズのタップが手に入らなかったので,6 mmの穴を開けて,そこに1/4インチボルトを力ずくでねじ込んで雌ネジを切りました。

組み立て

組み立ては特に難しいことはありません。写真を見ていただければわかると思います。L字金具,部材AおよびBを極軸となるボルトで束ねて,板Bの鬼目ナットに駆動ネジを通します。

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全体図。組み立ては簡単です

駆動ネジの頭には,部材Aへの当たりが滑らかになるように,袋ナットを付けておきました。またAの駆動ネジが当たるところにはテレホンカードの切れ端を瞬間接着剤で貼り付けました。

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駆動ネジと部材Aのあたりがスムーズになるようにします

また部材A,Bの先端には小さな木ネジをねじ込んで,これに軽く輪ゴムをかけておきます。

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部材A, Bの先端に輪ゴムをかけます

最後に1/4インチの雌ネジを切ったアルミ板を,板Bの裏側に木ネジで固定します(カメラ三脚に取り付けるため。カメラ雲台には1/4インチのネジがついているのです)。

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1/4インチの雌ネジを切ったアルミ板を取り付けます

これで完成です。材料の切り出しから組み立てまで,だいたい3時間もあれば出来ると思います。

もし塗装するなら,趣味に応じて好きな色のペンキなりニスなりを塗ってもよいでしょう。僕はメジロの絵を描いて(下手くそというツッコミはなしで),オイル塗装しました。…というわけで,この赤道儀は「メジロ号」と命名されました (^^)

使い方

現地に着いたらまず赤道儀をカメラ三脚に取り付け,赤道儀にはカメラ雲台を取り付けます。そしてL字金具に,塩ビ管を輪ゴムなどで取り付けます。これでこの塩ビ管は極軸と平行になります。これを極軸望遠鏡として使うのです。

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極軸望遠鏡代わりの塩ビ管で北極星を導入して極軸を地軸と平行にし,ハンドルを1分間に1回転の割合で回すと星の動きが追尾できる

次に北極星を探しましょう。極軸望遠鏡の視野の中心に北極星が入るように,赤道儀の向きを調整します。これで極軸と地球の回転軸が平行になります。以上で赤道儀のセッティングは完了です。

カメラを乗せて撮りたい方向に向けます。撮影モードはB(バルブ)。カメラのシャッターを開いたら,追尾開始です。時計とにらめっこしながら,1分間に一回転(10秒間に一目盛)の速さでハンドルを回してやります。カメラに振動を伝えないように,そーっと滑らかに回すのがポイントです。時間が来たらシャッターを閉じて,追尾終了。

作例

こんな簡単な赤道儀ですが,それなりにちゃんと写ってくれます。作例をいくつかあげます(撮影の時の設定も一緒に載せておきます)。

 奥秩父の稜線で見た夏の大三角と天の川

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18 mm, F3.5, iso 1600, 露光時間6分
 ケフェウス座付近

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18 mm, F3.5, iso 1600, 露光時間5分 奥秩父にて
 わし座 @奥秩父の稜線にて

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24 mm, iso 1600, F4, 露光時間270秒,ソフトフィルター使用
 プレアデス星団(すばる)とラブジョイ彗星

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103 mm, F5, iso 3200, 露光時間2分30秒

ね?ちゃんと写るでしょう?

撮影中は修行僧のように,じーっとハンドルを回し続ける必要があるのが難点ですが (^-^;)

 

おわりに

以上,手動赤道儀メジロ号の製作記録でした。これが僕の赤道儀1号機なのですが,実はこれよりもずーっと前(遠い目),中学生の時にも木製の手動赤道儀を作ったことがあるので,正確にいうと2台目になります。さらにこの後,自動追尾型の赤道儀2号機「ふくろう号」を作って,今は主にそちらを使っています。

でも手動追尾型赤道儀は製作もそれほど難しくないですし,安上がりです。そして気軽に持ち運ぶことができて,簡素な作りの割には,結構よく写ってくれます。星の写真を撮るためのちょっとした工作としては,悪くないんじゃないかと思います。夏休みの工作としてオススメですよ。

ふくろう号の製作記も,そのうちに書きたいと思います。

 

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