福島県田村市は三春のとなり,阿武隈山地に広がる町です。旧船引町,滝根町,大越町,都路村,そして常葉町が合併して,2005年に生まれました。
市の名前である「田村」は,かつてこの地域を平定した坂上田村麻呂の子孫,田村氏がこの地方に多く住んでいたことにちなんだものです。
平安時代から続く長い歴史を持つこの町に,「お人形様」という風習が伝わっています。藁で作った大きな神様を祀り,「魔除け」とするものです。
これはどんなものか,見てもらったほうが早いですね。この記事では現存する三箇所,「屋形」,「朴橋」そして「堀越」のお人形様を紹介します。
屋形のお人形様
はじめに「屋形のお人形様」へ。
場所は田村市の,三春町との町境近く。三春滝桜からもそう遠くないところです。
福島県道300号線(門沢三春線)を走り,屋形集落で脇に入ると,案内とともに駐車場があります。
お人形様は左手の高台に鎮座しています。森に続く階段を登っていくと…ガオー!
両腕を大きく広げて,悪霊を通せんぼしています。いかめしい顔。そして右手には太刀(薙刀?)を持っていますね。
「お人形様」の由来が書かれた看板も立っています。とても興味深い内容です。
江戸時代に疫病が流行した際,悪魔を追い払って町を守るために作られたとのこと。今から160年ほど前のことですが,この地の坂上田村麻呂以来の古い歴史・民俗がその下地にあったのでしょう。
伝承によると疫病が流行し,私たちの祖先はその苦しみから逃れたいため,悪魔を追い払おうという素朴な祈りから祀ったと言われております
ここの部落の人たちは毎年陰暦の3月15日に「お衣替え」と言って,お人形様のお顔を「砥の粉(茶色の顔料)」,「ベンガラ(赤色顔料)」,「胡粉(白色顔料)」などを用いて化粧したり,髪の毛として杉の葉を取り替えたり,菰や縄の飾りを新しくしてお祭りをいたします
左から見ると,腰には刀を刺していますね。これではさすがの悪霊も,町に入ってくることはできないでしょう!
顔をアップで見てみましょう。この顔ですよ!杉の葉を使った髪の毛と髭が妙にリアルです。
次のお人形様に向かうために,この場を後にしようと振り返ると,お人形様がバイバイー!と手を振っているように見えないこともない(笑)。
屋形のお人形様:福島県田村市船引町芦沢粭田前1
朴橋のお人形様
屋形のお人形様からほど近いところに小さな山があります。その山の斜面,杉林に急な階段が伸びています。
この上にはまたまたお人形様!
ここ朴橋のお人形様は,杉林を背にして町を見下ろしています。背後に「金剛山」と彫られた石が。
ちなみに朴橋は「ほおのきばし」と読みます。お伽話に出てきそうな地名です。
右から見ると,腰の刀がよくわかります。眼の横についているグルグル渦巻きみたいなのは,「耳」ということのようです。
こういう異形の面,秋田のナマハゲにも通じるものがあるのかなあ。蝦夷(えみし)の平定以前からの古い歴史が,東北にはあるからね。そういうのも下地になってるのかなあと思ったりしますね。
こちらもアップ。髪型がオシャレですなあ。
吊り目に三白眼。三体のお人形様の中では,ここ朴橋のお人形様が一番コワイ顔をしてるような気がします。
手に持っている薙刀も,ここのお人形様のが一番長いですね。
朴橋のお人形様:福島県田村市船引町芦沢朴橋
堀越のお人形様
最後に「堀越のお人形様」へ。
堀越集落,坂上田村麻呂を祀った「明石神社」の脇にあります。こちらは階段の上ではなく,小さな橋を渡ったところにいますね。
屋形,朴橋のお人形様に比べると,一回り小ぶりでしょうか。つぶらな瞳で,顔もちょっと可愛らしい感じがします。
腕は短めですが,太刀は長いですね。そして比較的新しい屋根がついています。
「復元の碑」を読むと,ここ堀越のお人形様はお面だけが長く保存されていたのを,平成4年に復元したものらしいです。
こちらもお顔をアップにしてみましょう。つぶらな瞳ですが,悪霊に対してしっかり睨みを聞かせています。
小ぶりとはいえ,通せんぼをするその姿は力強いですね。「厄災は町に入れないぞ」という強い意志を感じますな。
明石神社前の広場には,木彫りの動物隊がいます。リスがリコーダーを吹いているのがかわいい (^◡^)。
堀越のお人形様:福島県田村市船引町堀越明神前1−1
おわりに
屋形のお人形様,朴橋のお人形様と,復元された堀越のお人形様。記録によると,昔はこの他に2体(計5体)存在していたようですね。それだけの神様が町を守っていたということですね。
三春〜田村にかけては桜のイメージばかりが強かったんですが,いろいろと面白いなあ。
「光る君へ」も盛り上がっていることだし,平安の世の東北の歴史にも目を向けてみようかなと思います。
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