福島県で一番大きな町・郡山市は,桜の宝庫でもあります。特に,滝桜擁する三春町に隣接した中田町には,銘木というべき桜がたくさんあります。
その地域の桜を巡ってきた話です。
前記事「福島県南部桜めぐり––金毘羅桜,昌建寺のしだれ桜,常願寺の願い桜,大方寺のしだれ桜,古舘の桜など【福島の桜2025】」と合わせてお読みください。
五斗蒔田桜
中田町辺りには,滝桜の子孫とされる桜が多数あります。その中の一つ,五斗蒔田桜は未訪問で気になっていました。今年の桜めぐりで優先度が高かったんですよね。
さて4月16日,県南部の桜を回ったあと中田町に行ってみました。すでに夕暮れ時。五斗蒔田桜は夕焼け空を背景に佇んでいました。
翌朝,再び五斗蒔田桜を訪ねます。桜は小高い丘の上で,朝の光を浴びています。
近くにある農作業小屋と比べると,かなり大きな桜であることがわかるかと思います(小屋の右上に人も写っています)。
この桜は,「丘の上のビーナス」という愛称で親しまれています。左側から見ると,丘の上でダンスを踊っているような樹姿。躍動感あふれる姿です。
その様子は,明るい春の雰囲気を感じさせてくれます。いいですねー。
福島桜番付によると,五斗蒔田桜の樹齢は150年となっています。銘木ひしめく福島にあって,これは比較的若い方でしょうか。
けれども丘に上がってみると,「ビーナス」の名とは裏腹に その幹はどっしりと太く,力強さを感じます。
ところでこのあたり一体は,藩政時代に馬の産地であったようです。桜の根元には,馬頭観音が祀られています。
躍動的で軽やかな姿と力強い幹,そして古い時代から続く信仰。重層的な魅力を持つ桜だと思いました。
先に書いたように,五斗蒔田桜はあの三春滝桜の子孫だと言われています。
こうして正面から見ると,見事な枝垂れっぷりにその面影を見ることができますね。
滝桜が女王だとするならば,妖艶な長女が紅枝垂地蔵桜,おおらかな性格の次女が上石の不動桜,そして明るく活発な三女が五斗蒔田桜といったところでしょうか。妄想だけどね。
十一面観音桜
五斗蒔田桜からほど近い大古山という集落に小高い山があって,その上に小さな観音堂が建っています。
宝蔵寺の別当である観音堂には,頭上に11の顔を持ち 世の中の隅々まで見渡して人々の苦難を救う十一面観音が祀られています。
観音堂のそばにある桜は,空に向かって腕を伸ばしています。まだ三分咲きくらいかな?
中田町の桜は,滝桜よりも数日開花が遅いようですね。
十一面観音桜,あまり知られていないけど,雰囲気のある桜だなあ。観音堂前の説明看板によると,樹齢400年とのこと。
この桜は正面から見るとシュッとした姿ですが,左側に回り込むと上部の枝は豪放に伸びているのがわかります。
観音堂の裏手には,野仏が春の日差しを浴びています。静かな山里に風が吹き抜けます。
観音堂の建つ小山からは,付近の里を見渡すことができます。朝早い時間の訪問だったこともあり,この眺めをひとりじめしながら過ごしました。
稲荷神社の子授け桜
五斗蒔田桜から近いところに道内という集落があります。その細い道を入っていくと,巨大な桜が忽然と現れます。
桜は神社の鳥居に覆い被さるように咲いています。これが「子授け桜」です。
ここもあまり知られていないと思いますが,すんごい巨木です。
桜に近づいてみると,まるで桜に飲み込まれるような錯覚を覚えます。
鳥居へ向かう参道の正面に立ってみます。鳥居と比べると,いかに大きな桜かがわかるでしょうか。
鳥居をくぐって神社に向かってみましょう。
桜の根元には,この桜の「由緒書き」が置かれていました。かなり古いもののようです。
御神木の由緒
子授け桜この桜の幹に登り 二又のところにまたがり祈願すると
子供が授かるとのお告げ正一位 稲荷神社
で,実際に二股のところに向かうハシゴが置かれているんですが…もしかして「子授け桜」の名前の由来って ↓ これ?(暗くてわかりづらいですが,ハシゴの左側に…イヤン)
桜の奥には稲荷さまのお社があります。味のある…というか土着の信仰を感じさせるお社とお稲荷さまです。
お社は古いけど手入れが行き届いており,地元の人たちによって大切にされていることがよくわかりました。
神社をあとにして桜の前に出てくると,再び圧倒的な存在感。この桜もすごく気になっていたので,満開のときに訪ねることが出来て満足です。
それにしても,こんなすごい桜があまり知られることなく咲き誇っているって,福島県おそるべし。
水月観音堂桜
この日は二本松の「梅沢の山桜」を見たあとに,田村市経由で郡山市(中田町)に入ったのですが,市境を越えたところでこの桜に出会いました。
小さなお堂は「水月観音堂」と呼ばれているようです。枝垂れた桜と観音堂の組み合わせは,しっとりとして なかなか風情のある佇まい。
というか,「水月観音堂の桜」っていう名前ですでに風情があるよね。
ここは常林寺という無住のお寺ですが,境内はきれいに整備されていて,地域の人たちによって大切にされているのがよくわかりました。
伊勢桜
中田町から三春滝桜へ向かう道(県道40号線)を走っていると,道路脇に大きな桜が不意に現れます。伊勢桜です。
この桜は枝を大きく広げ,道路を覆うように枝垂れています。
中田町あたりの桜を巡ると,郡山市街地に戻る途中でここを通るので,この桜を目にすることは比較的多いんじゃないかと思います。
龍光寺のしだれ桜
中田町の西寄り(郡山市街地に近いほう)にあるお寺が龍光寺。江戸時代中期に建立されたとされる古刹には,優しげなしだれ桜があります。
境内には「地蔵菩薩」などと書かれた幟が立っています。しだれ桜は,この幟とともに風にはためいていました。
紅枝垂地蔵桜と上石の不動桜
中田町を…いえ福島県を代表する2本の桜を,最後の付け足しのように取り上げるのは不遜でしょうかね。
ただ,今回は日の光が当たらない時間の訪問となってしまい,写真をあまり撮れなかったのでね(以前にも行ったことがあるので,この時間になってしまいました)。
紅枝垂地蔵桜は,福島桜番付において,三春滝桜と並んで横綱に選出されている桜です。さすがに見事な枝ぶりですね。
この桜は紅色が特に濃く,妖艶な印象を与えます(この写真は,彩度をむしろ下げています)。
桜の下には地蔵尊が祀られています。古くから,赤ん坊を夭折から守るための祈りの場所だったようです。
大きな桜の木には生命力を感じますよね。昔の人にとっても,桜は命だったということなのでしょう。
続いて上石の不動桜。不動尊が祀られている傍のお堂は,江戸時代に寺子屋として使われていたと伝わっています。
桜はここでも,子供たちをずっと見守ってきたんですね。
おわりに
味わい深い桜がたくさんある,郡山市中田町。
上石の不動桜や紅枝垂地蔵桜はよく知られていますが,それ以外にもすごいのがひしめいています。また桜を取り巻く雰囲気もとても良いところです。
滝桜を見にきたら,こちらにも足を伸ばしてみることをお勧めします。
三春町内の桜もとてもいいから,そちらもオススメなんですけどね(汗)。
撮影
- 龍光寺のしだれ桜,稲荷神社の子授け桜,紅枝垂地蔵桜,上石の不動桜 2025年4月16日
- 五斗蒔田桜 4月16日および17日
- 十一面観音桜,伊勢桜 4月17日
こちらも見てね
十一面観音てこういう仏様なんですね