NHKの大河ドラマ「光る君へ」にハマっています。
藤原道長と紫式部(まひろ)の絆を軸としながら,平安時代の人間模様が清濁合わせて色濃く描かれるドラマ。貴族が身に纏う装束も美しく,映像を見ているだけでもうっとり。
そんな中,5月26日に放映された第21話「旅立ち」では,清少納言の「枕草子」誕生の背景が描かれました。
中宮定子が「春はあけぼの」と読むシーンはあまりにも美しくまた悲しく,あの夜は日本中が号泣したんじゃないかと思うくらいでした。というか,あのシーン,思い出すだけでまた泣けてきます。
あんまり良かったので,僕が撮った写真で「春はあけぼの」や「夏は夜」があったっけ?と探してみました。
春はあけぼの
春はあけぼの
やうやう白くなりゆく 山ぎは
少しあかりて
紫立ちたる雲の ほそくたなびきたる
「春はあけぼの」に合う写真は…探してみたけど一枚しか見つかりませんでした。
入笠山で迎えた夜明けです。八ヶ岳の上の空が赤く黄色く染まっているのがいとをかし。
山ぎわは,確かに "少しあかりて" ますね (^◡^)。
これを撮ったのは5年前のゴールデンウィーク。まだ山の上は肌寒かったから「春」ってことでいいよね。
それにしても。「春はあけぼの」って,なんて美しい日本語でしょうか。
夏は夜
夏は夜 月のころはさらなり
闇もなほ 蛍の多く飛びちがひたる
また ただ一つ二つなど ほのかにうち光りていくも をかし
雨など降るも をかし
「夏は夜」の写真はけっこうありました。夏山でとった星空写真ですね。
これは南岳で撮った夏の天の川。天の川が特に濃く見えるのは夏だから,やっぱり夏は夜。
清少納言も天の川を見上げていたでしょうか。
北アルプスに天の川がかかります。なだらかな双六岳の上には,夏の大三角。織姫・彦星の話は平安時代には伝わってたのかな?
枕草子により即しているのはこっちかな。「蛍の多く飛びちがひたる」。
ファーストサマーウイカさん演じる清少納言が筆を走らせていた時(あの筆文字,ウイカさんご本人が書いてたんですね!),画面に蛍が飛びちがっていたシーンは嗚咽してしまいそうでした。
今年ももうすぐホタルが飛び始めます。撮影に出かけようかどうか,ちょっと考え中。…去年藪蚊にボコボコに刺されてしまったので (^ ^;)。
秋は夕暮れ
秋は夕暮れ
夕日のさして 山の端いと近うなりたるに
烏の寝どころへ行くとて 三つ四つ 二つ三つなど 飛びいそぐさへあはれなり
まいて 雁などのつらねたるが いと小さく見ゆるは いとをかし
日入りはてて 風の音 虫の音など
はた言うべきにあらず
「秋は夕暮れ」に合う写真も,あらためて探すと一枚しか見つかりませんでした。
二本松市安達ヶ原ふるさと村の彼岸花と五重塔。平安京・東寺の五重塔だと思って見ればいいでしょうかね?
「山の夕暮れ」の写真はありそうでありませんでした。登山の時は,夕方になる前にテント場に着くことを心がけているからね。
冬はつとめて
冬はつとめて
雪の降りたるは 言うべきにもあらず
霜のいと白きも
またさらでも いと寒きに
火など急ぎおこして 炭持てわたるも いとつきづきし
昼になりて ぬるくゆるびもていけば
火桶の火も 白き灰がちになりてわろし
冬の早朝の空気がキーンと冷えた感じ,いいですよね。寒いけど。
それにしてもいてつく早朝を「つとめて」というの,見事な表現だと思います。
これは11月頭の南アルプス。11月だから「冬」って言っちゃっていいか微妙だけど,山の上で寒いし,雪もうっすら積もってるからいいよね。
冷え込んだ空気の中,白い息を吐きながら眺める甲斐駒ヶ岳はいとをかしでした。
12月に入ると山の上の冷え込みはいっそう厳しくなります。奥多摩・雲取山の稜線,朝日を受けて霧氷が輝きます。
暑くなってくるこれからの季節,あのしびれるような寒さも懐かしくなります。
岩手の白鳥もつとめてを楽しんでいます。冬の早朝ってあの凛とした空気がいいんですよね。
ところで枕草子,最後に「白き灰がちになりてわろし」って,小さな "オチ" がついてますよね。失意の中にいた中宮定子さま,ここを読んでクスッと笑ったんじゃないかと思うんですよね。
「光る君へ」のあのシーンを見て,そうであって欲しい…なんてちょっと思ったりしました。
千年の時を超えて
日本の子供たちは,小学校5年生で枕草子と出会います。そして「春はあけぼの」という言葉を心に持って大きくなります。
その言葉はきっと子供たちの心の栄養になっていることでしょう。
「光る君へ」を見ながら何よりすごいと思ったのは,千年前に書かれた「春はあけぼの」の一節を,日本人がみんな知っていることです。だからこのシーンで,日本中の人が感動を共有できる。歴史の素晴らしさよ!
おまけ––もう一つの千年,三春滝桜
ところで,京都で清少納言が「春はあけぼの」と歌った頃,福島の三春で滝桜が花をつけ始めました。
この桜の生命力に触れるたびに,悠久の時の流れを感じて,古のときに思いを馳せてしまいます。
滝桜と月。千年前からそこにあったもの。
藤原道長は月を見上げて,「望月の欠けたることもなしと思えば」と歌ったんでしたっけ(この歌は,彼が糖尿病による視覚障害を患っていたことを示しているという説もあるようですが)。
おわりに
こうやって以前の写真を引っ張り出してみたわけですが,意外に出てこないものですね。
「春の夕暮れ」とか「秋の夜」とかちょっと違う組み合わせのものは結構あるんですが(汗)。
「春はあけぼの」といえば,夜明け前の桜を撮った写真は一枚もありませんでした。いつかチャンスを作って撮ってみたいと思います。
この記事を書きながら枕草子を読み返して,あらためてその美しさに感嘆しました。これが一千年前に書かれて,今に伝わっているという尊さにも感慨を覚えずにはいられません。
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