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5月の森に新緑輝く!…これは例えではなく,本当に葉っぱが光っているという話【クロロフィル蛍光】

まぶしい新緑


風薫るうるわしき5月よ!

この季節は本当に爽やかですね。風は暖かく日差しも明るい。スギ花粉も飛ばなくなったし(笑)。

そして何よりも,新緑がまぶしい!

新緑輝く!

新緑輝く!

そう,新緑がまぶしいのです。輝くような新緑の森が私たちを待っているのです。

…ってよく言いますけどね。

この「まぶしい新緑」とか「新緑輝く」とかいう表現ね。感覚的なものとして何気なく使いますが,実はこれ,例えではなくて,葉っぱは本当に光を出している(発光している)という話です。

化学で「クロロフィル蛍光」という現象です。

そもそも葉っぱが緑色なのはなぜ?

「葉っぱが光っている話」をする前に,そもそも葉っぱが緑色に見える理由に触れましょう。これは葉っぱの発光に密接に関係がありますからね。

私たちは葉っぱの反射光を見ている

真っ暗な部屋で葉っぱを見ても,何も見えないですね。私たちは,葉っぱに光が当たったときの反射光(または透過光)を見ているわけです。

私たちが見ているのは,葉っぱの反射光

私たちが見ているのは,葉っぱの反射光

「葉っぱが緑色に見える」ということは,太陽の光が葉っぱに当たった時,反射して目に届くのが緑色の光ということです。

虹の七色

ところで太陽の光は「白色光」と言われ,基本的には白い光です。

けれども太陽光をプリズムで分けると,光が「虹の七色」に分かれます。。これは,光の波長が長くなっていく順番でもあります。

白馬大池の虹

虹の七色(@北アルプス白馬大池)

最も波長が短いのが紫の光,最も長いのが赤い光です。そして紫よりもさらに波長が短い光が紫外線,赤よりも波長の長い光が赤外線です。

虹の七色

虹の七色。数字は光の波長(単位:nm)

付け加えると,波長の短い光ほどエネルギーが高いので,紫や青の光はエネルギーが高く(紫外線はさらにエネルギーが高い),赤い光はエネルギーが低い(赤外線はさらにエネルギーが低い)ということになります。

光の三原色

太陽光が「虹の七色」できているという話をしましたが,もうちょっと話を単純化しておきましょう。

「光の三原色」と呼ばれる光があります。赤 (R), 緑 (G), 青 (B) の光です。これは「虹の七色」をもっとざっくりと色分けしたものと見ることもできます。

R, G, B。この3色の光を組み合わせれば,あらゆる色の光を作り出すことができます。

液晶画面を拡大すると,RGBの光でできている

例えばスマホやPCの画面をルーペで拡大して見ると,小さくR, G, Bの光の点が光っているのがわかるはずです。

これらの光の重ね合わせですが,具体的にどうなっているでしょう?

光の三原色

光の三原色

青と赤の光を重ねるとマゼンタになり,青と緑の光が重なるとシアンと呼ばれる色になります。では赤と緑の光が重なると?これはちょっと意外かもしれませんが,イエローの光になるのです。

赤,青,緑,全てが重なると…?もちろん白色光になるんですよ。

葉っぱが緑色に見えるということ

話を戻しましょう。繰り返しになりますが,葉っぱに当たっている光は太陽からくる白色光なのに緑色に見えるということは,葉っぱに反射して目に届いているのは緑色の光だということです。

緑以外の光はどこに行った?

緑以外の光はどこに行った?

でも太陽の光は「虹の七色」からできているんですよね?あるいは白色光は光の三原色の重ね合わせでできているんですよね?

…他の光はどこに行っちゃったんだろう?

実は葉っぱに太陽光が当たると,葉っぱは緑以外の光を吸収しているのです。そのため,緑色の光だけが反射して私たちの目に飛び込んでくるということになります。

実験してみましょう–– ① 試料の準備

ここで葉っぱが緑以外の光を吸収しているということを,実験で確かめてみましょう。

まず,公園に行って葉っぱを拾ってきます。ちょうど桜の葉っぱが散っていたので何枚か拾ってきました。水で洗ってきれいにしておきましょうかね。

桜の葉っぱを拾ってきました

桜の葉っぱを拾ってきました

これをハサミで小さめに刻みます。ちなみに写真に写っているのは,小学生の頃の息子です (^◡^)。

葉っぱを刻みます

葉っぱを刻みます

刻んだ葉っぱを入れものに入れて,消毒用エタノール(アルコール)をドボドボっと注ぎます。

刻んだ葉っぱに消毒用エタノールを注ぎます

刻んだ葉っぱに消毒用エタノールを注ぎます

これを2〜3時間置いておくと,葉っぱの中のクロロフィル(いわゆる葉緑素)がアルコールに抽出されて,緑色の溶液が得られます。

クロロフィル抽出

クロロフィル抽出

これをコーヒーフィルターで濾過して「葉緑素抽出液」を得ました。ちょっと美味しそう?(笑)

葉緑素抽出液

葉緑素抽出液

さてここで,抽出された葉緑素(クロロフィル)の構造を描いておきましょう。クロロフィルには数種類あるのですが,下に示すのは「クロロフィルa」です。

クロロフィルa

クロロフィルa

クロロフィルは,このように窒素を4個含むリング(クロリンといいます)に,マグネシウムイオン Mg2+ がはまり込んだ構造を持つ化合物です。

実験してみましょう–– ② 実験方法

次に,この抽出液を1 cm角の透明な容器に入れます(この容器のことを,以下「セル」と呼びます)。下の写真に写っているのは,3本のセルに,それぞれ葉緑素抽出液,5倍希釈した抽出液,そして何も溶けていない消毒用アルコールを入れたものです。

セルに葉緑素抽出液,アルコールを入れました

セルに葉緑素抽出液,アルコールを入れました

そしてこのセルに3色LEDライトを使って光を当て,通り抜けてくる光の強さを観察します。

使ったのはこれ。ArTEC から出ている「3色LEDセット」です。

ArTEC LED光源装置3色セット

ArTEC LED光源装置3色セット

↓ これ,いろいろ遊べてオススメです


このLEDライトと2つのセル,そして白い紙を下のようにセットして,紙に写る透過光を調べます。この時,一方のセルにはアルコールのみを,もう一方のセルには葉緑素抽出液を入れて,透過光の強さを比べます。

実験します!

実験します!



実験してみましょう–– ③ 実験結果はこちら

 青色LEDを当てた時

まず,青色LEDの光を当てた時の結果がこちらです。左がアルコールのみ,右が葉緑素抽出液を入れたセルです。紙に映った透過光を,上から写真に撮っています。

葉緑素抽出液は,青い光をよく吸収する

葉緑素抽出液は,青い光をよく吸収する

葉緑素抽出液を通過した光は吸収されて,後ろの紙に濃い影を作っているのがわかるでしょうか。

つまり,クロロフィルは青色の光をよく吸収するということです。

 赤色LEDを当てた時

次に赤色LEDを使って同じ実験をしてみます。すると…

葉緑素抽出液は,赤い光もよく吸収する

葉緑素抽出液は,赤い光もよく吸収する

やはり葉緑素抽出液を通過した赤色光は吸収されて,後ろの紙に濃い影を作っています。クロロフィルは赤色の光もよく吸収するということですね。

 緑色LEDを当てた時

それでは最後に緑色のLEDではどうでしょう?

緑色の光はあまり吸収されない

緑色の光はあまり吸収されない

緑色LEDの光は,葉緑素抽出液を通過しても,あまり影ができていないのがわかるでしょうか?緑色の光はあまり吸収されないんですね。

まとめると,クロロフィル(葉緑素)は,光の三原色のうち赤と青の光をよく吸収し,緑色の光はあまり吸収しません。このため,葉っぱに光が当たると緑色の光だけが反射(または透過)されて目に届き,葉っぱが緑に見えるということになります。

クロロフィルAおよびBの吸収スペクトル

クロロフィルAおよびBの吸収スペクトル

上に示すのは "葉緑素" の主成分,クロロフィルa および b の吸収スペクトルです(出典:wikipedia)。横軸が光の波長,言い換えれば光の色。縦軸は吸光度で,これは「どれくらい光を吸収するか」を表す指標です*1, *2

このスペクトルにも,クロロフィルは青と赤の光を吸収し,緑色の光はほとんど吸収しないことが示されています。

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*1 入射した光の強度を  I_0, 透過してきた光の強度を  I とすると,吸光度  A A=-\log \dfrac {I}{I_0} で定義されます。つまり試料を通り抜けた光が強度  \dfrac {1}{10} になっていれば吸光度は1, \dfrac {1}{100} になっていれば吸光度は2です。

*2 葉緑素抽出液の吸収スペクトルは,近いうちに実際に測定してみようと思います。

基底状態と励起状態

さて,クロロフィルが赤と青の光を吸収することは分かりましたが,これらの光を吸収して,クロロフィルはどうなっているのでしょう?

分子は,通常は「基底状態」という落ち着いた状態にあります。ところが光を吸収すると,そのエネルギーを受け取って「励起状態」というエネルギーの高い状態になります。

基底状態と励起状態

基底状態と励起状態

励起状態は英語でいうと "excited state"。直訳すると「興奮状態」です。分子が光のエネルギーを受け取って,フンガー!と興奮している状態と言ってもいいでしょうか。

赤と青の光を吸収するということは,クロロフィルの励起状態は複数あって,基底状態よりも「赤い光のエネルギー分だけ興奮した状態」と「青い光のエネルギー分だけ興奮した状態」があるということです。

クロロフィルは赤い光を吸収して「励起状態1」になったり,青い光を吸収して「励起状態2」(下の図)になったりしてるということですね。

赤と青の光を吸収すると…

キモい絵になってしまった…

この図を見てわかると思いますが,青い光を吸収した時の方が,よりエネルギーの高い励起状態になるんですよ。青い光は赤い光よりも高いエネルギーを持っていますからね。

付け加えると,クロロフィルは紫外線も吸収して励起状態になります*3。紫外線による励起状態は,さらに高いエネルギー状態にあります。

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*3 ただし紫外線は目に見えないので,これが吸収されても「色」には影響を与えません。

電子の軌道と電子励起(このセクションはややこしいので適宜飛ばしてね)

このセクションはややこしいので,気が向かなかったら飛ばしてここにジャンプしてください。読まなくても話は通じるかと思います。

 原子の構造と電子の軌道

またちょっと話が変わります。

高校の化学で,原子の構造を習ったのを覚えているでしょうか?

原子の中心には「原子核」があって,これはプラスの電荷を持っている。またその周りを電子が回っている。電子はマイナスの電荷を持っていて,決まった軌道の上を運動している。…というような話でしたかね。

原子の構造

原子の構造…おおざっぱなモデルですが

あたかも,太陽の周りを地球や火星などの惑星が回っているような格好でしょうか。

この描像は,実はかなり乱暴なモデル化なんですが,ここではまあいいや。

 分子の中の電子の軌道(分子軌道)

実は原子だけでなくて,分子(化合物)にも電子の軌道があります(分子軌道といいます)。

原子の電子軌道は,「太陽の周りを回る惑星」みたいに "乱暴に"(でも直感的にはイメージしやすく)モデル化できたんですが,分子軌道はそういうのがやりにくいので,このまま話を進めます。

天然ガスに含まれる「エチレン」というガスがあります。この化合物は14個の分子軌道を持っていて,電子はエネルギーの低い軌道から2個ずつ詰まっていきます。エチレンが持っている電子は16個なので(炭素 6電子 x 2, 水素 1電子 x 4),下から8番目の軌道まで電子が詰まっています。9番目以上の軌道は空ということです。これを図で表すと,以下のようになります*4

エチレンの電子状態

エチレンの電子状態

横線は分子軌道を表しており,MO1, MO2…はエネルギーの低いものから1番目の分子軌道,2番目の分子軌道…という意味です*5。またそれぞれの横線にドットが2個入っているところは,その軌道に電子が2個入っていることを表しています。

ここで注目すべきことは,電子のエネルギーは連続ではなく,飛び飛びになっていることです。

さて,MO8 と MO9 の間に  \Delta E と書かれています。この  \Delta E の大きさは,MO8 と MO9 のエネルギー差を意味しています。

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*4 さっきの「基底状態,励起状態」の絵では,横線は化合物全体のエネルギーを表していましたが,この絵では化合物の中の分子軌道1つひとつのエネルギーを表していることに注意

*5 MO は Molecular Orbital, 分子軌道の意味ね

化合物に光が当たるとどうなる?––エチレンを例に

ここでエチレンに,光が当たったとします。

するとエチレンに当たった光のうち, \Delta E と同じエネルギーの光が吸収されます。そしてその光のエネルギーを使って,MO8 にある電子が,MO9の軌道に跳び上がるということが起こります。

MO9 に電子が飛び上がった状態は,分子全体のエネルギーも高くなっています。この状態が励起状態です。

エチレン分子に光が当たると…

エチレン分子に光が当たると…

エチレンの場合,8番目の軌道と9番目の軌道のエネルギー差は,波長 163 nm の光のエネルギーと同じということがわかっています。つまりエチレンに光を当てると,163 nm の光を吸収して励起状態になるということです。

163 nm の光というのは紫外線です(厳密にいうと,紫外線の中でも波長が非常に短い "真空紫外線" に分類されます)。

「エチレンは紫外線を吸収する」…紫外線は目に見えませんよね。言い換えれば,エチレンは目に見える光=可視光を吸収しないということです。

エチレンに太陽光が当たっても,太陽光のうち目に見える光は全て通り抜ける*6。だからエチレンガスは無色透明なのです。

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*6 実のところ,163 nmの光は空気によって吸収されるため,通常の環境では地上まで届きません。

クロロフィルに光が当たると…?

それでは,葉緑素(クロロフィル)に光が当たるとどうなるでしょう?

「クロロフィルa」は401個の分子軌道と482個の電子を持っています(エチレンに比べるとだいぶ複雑ですね)。

クロロフィルa に光が当たると…

クロロフィルa に光が当たると…

クロロフィルaの分子軌道は,エネルギーの低い方から数えて241番目までが電子で埋まっています(1つの軌道に2電子入ることができるため)。242番より上は空ということですね。

クロロフィルaに光が当たると,例えばMO241(下から241番目の軌道ね)にいる電子が,光のエネルギーを使ってよりエネルギーの高い軌道に飛び上がるということが起こり得ます(電子遷移といいます)。

電子遷移のうち,MO241から  \Delta E_1 だけエネルギーの高い軌道への遷移が起こりやすければ,クロロフィルは  \Delta E_1 と等しいエネルギーの光を吸収して電子遷移を起こし,励起状態になります。また \Delta E_2 エネルギーの高い軌道への遷移も起こりやすければ, \Delta E_2 と等しいエネルギーの光も吸収して,別の励起状態になります。

ここで  \Delta E_1 および  \Delta E_2 が,それぞれ赤い光および青い光のエネルギーと等しかったら?

クロロフィルaは赤と青の光を吸収することになりますね。葉っぱが緑色に見えること,すなわち赤と青の光を吸収することはこうして説明されるのです。

クロロフィル蛍光

蛍光って何?

ここからようやく "蛍光" の話になります。

ここまでは「光の吸収」の話でした。化合物は光を吸収すると,そのエネルギーで高いエネルギー状態の「励起状態」になるんでしたね。

じゃあ励起状態になった分子はそのあとどうなるのでしょう?

励起状態になった分子はそのままでいることはできず,速やかに基底状態に戻ります。

基底状態→励起状態(エネルギー低→高)の際は,エネルギーを光として吸収しました。逆に励起状態→基底状態(エネルギー高→低)の際は,余剰のエネルギーを放出することになります。

エネルギーを放出して励起状態から基底状態へ

エネルギーを放出して励起状態から基底状態へ

この「余剰のエネルギー」は多くの場合,分子の振動や回転などに使われて放出されます。ざっくりいうと「熱として放出される」と言っていいかな。

けれども中には,余剰のエネルギーを光として放出する化合物もあります。この時出てくる光が蛍光です*7, *8

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*7 蛍光を出す化合物に共通した特徴もあるんですが,話がややこしくなるのでここではパス

*8 発光現象として「リン光」もあります。これもここではパス

光合成とクロロフィル蛍光

光を吸収したクロロフィルは,励起状態となってエネルギーが高くなっています。植物はこのエネルギーを光合成に使います。

けれどもエネルギーが余っちゃって,光合成に使われない励起状態クロロフィルもたまには出てきます。

仕方がないので,そういうクロロフィルは基底状態に戻ります。このときに放出される光がクロロフィル蛍光です。

光合成に使われなかったエネルギーが蛍光として出てくる

光合成に使われなかったエネルギーが蛍光として出てくる

新緑が輝いているのは "例え" ではなく,実際にクロロフィル蛍光によって光を放っているのです。この光は光合成に使われなかった「余りのエネルギー」でもあるわけです。

再び実験です

それではクロロフィル蛍光も実験してみましょう。

先ほどと同じように,葉緑素抽出液をセルに入れて,青色LEDで光を当ててみます(この実験では少し薄めた抽出液を使っています)。その様子を横から見ると…。

クロロフィル蛍光

葉緑素抽出液に青い光を当ててみると…

光が当たっているところが赤く光っているのがわかるでしょうか。繰り返しますが,当てているのは青い光です。でも出てきているのは赤い光。クロロフィル蛍光が見えているのです*9

蛍光を放つ新緑

蛍光を放つ新緑

最初の方で,赤い光と緑の光が重なると,イエローの光になるという話をしましたよね。

日差しが強いとき,新緑はかなり黄色に寄った緑色に見えませんか?これは葉っぱの反射光(緑)とクロロフィル蛍光(赤)が重なっていることが少なくとも理由の一部と解釈していますが,合ってるでしょうか。

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*9 この実験で用いた抽出液は,アルコールにクロロフィルが溶けたものです。アルコール中では,クロロフィルは光合成ができなくなっているので,励起状態は蛍光を放って基底状態に戻らざるを得ません。このため蛍光が効率よく観察できるのです

ちょっと専門的な話––Kashaの法則

ところで実験結果を見て,こんなふうに思った人はいませんか?「青い光を吸収して励起状態になったんだから,基底状態に戻るときに出てくる光も青いのでは?」

そう思ったあなたは鋭い。

実は化合物が光を吸収して励起状態になったとき,その分子は熱エネルギーを速やかに放出して,「最低励起状態」になります。そして最低励起状態から蛍光を放出して基底状態に戻るのです。これをKashaの法則と言います*10

クロロフィルは赤い光と青い光を吸収できるんでしたね。そして青い光の吸収によって生じた励起状態は,赤い光によるそれよりもエネルギーが高いんでしたね。

だから「青による励起状態」は熱エネルギーを放出して「赤による励起状態」になるのです*11,12。これが光を放出して基底状態になるので,出てくる光は赤ということです。

Kashaの法則

青による励起状態→赤による励起状態→蛍光放出

これ,「吸収された光よりも,出てくる光は必ずエネルギーが低い」と言い換えることもできます。

カラオケボックスでブラックライトに当たった服が光ることがありますね。「ブラックライト」は紫外線です。つまり紫外線が当たって励起状態になった服が蛍光を出しているわけですが,光っているのが見えるということは,出てきている光は可視光線(紫外線よりもエネルギーが低い)です。

紫外線によって生じた励起状態が最低励起状態になり,そこから蛍光が出るので「当たった光よりも出てくる光のエネルギーが低くなっている」わけです。

フルオレセインの蛍光

フルオレセイン(蛍光ペンに入ってるやつです)に紫外線を当てると,黄緑色の強い蛍光を出す

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*10 これは化合物をどんな光で励起した場合でも,出てくる蛍光は同じ色であることを意味しています

*11 正確にいうと,赤い光を吸収して生じた励起状態よりも,わずかにエネルギーの低い状態(分子の振動がおとなしい状態)になります…が,ここはちょっとややこしいので説明はパスします。

*12 クロロフィルが紫外線を吸収して生じる励起状態はさらに高いエネルギーを持ちますが,これもやはり「赤による励起状態」に下がってから蛍光を放ちます。目に見えない紫外線を吸収して目に見える赤い光を放つんだから,眩しいわけだ!

まとめ

長々と書いてきましたが,まとめるとこんな感じになるでしょうか。

クロロフィル蛍光・まとめ
  • クロロフィルは,赤と青の光を吸収し,緑の光は吸収しない。このため,葉っぱは緑色の光を反射して緑色に見える
  • 光を吸収したクロロフィルは,励起状態というエネルギーの高い状態になる
  • 励起状態のクロロフィルは光合成を行う。光合成に使われなかった励起クロロフィルは,蛍光を放出して基底状態に戻る
  • つまり葉っぱは光っている!

おまけ

途中の「飛ばしていいよ」のセクションで書いたように,励起状態では,電子が一つ高いエネルギーの軌道に叩き上げられています。

クロロフィルの場合,この電子が他の分子に移り,これがきっかけとなって光合成が進行します。するとクロロフィルの電子が1つ足りなくなりますね。

足りなくなった電子は,周りにある水から供給されます。つまり水が酸化されます。この反応は

 2\mathrm {H_{2}O} \rightarrow 4\mathrm{H^{+}} + \mathrm{O_{2}} +4\mathrm {e}^-

で表されます。酸素 (O2) が発生するのがわかりますね。

 

おわりに

「5月の森に…」というタイトルで書き始めたけど,ぐずぐずしてたら6月に入っちゃいました(苦笑)。

でもタイトルは変えずにこのままにしときます。まあ梅雨入り前にポストできたからいいことにしよう。

新緑の山に行きたいなあ!

 

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