sunsun fineな日々

子育てしながら,山を歩いたり星を見たり料理したり写真を撮ったり

ポータブル赤道儀の自作
登山記録・山域別
福島の花と風景
カメラ機材レビュー・写真の理論

新倉章子さんの個展「たのしみは」にお邪魔してきました––枯れゆく植物たちの命と影

典壽さんの個展


水墨画・墨彩画を描く新倉章子さんという画家さんがいらっしゃいます。雅号は典壽さん。

新倉さんが描き続けているのは,植物。野に咲く植物が,繊細で深みのあるタッチで描かれます。僕はそんな新倉さんの絵の大ファンで,以前よりSNSで親しくしていただいています。

今月の上旬,新倉さんの個展が西千葉の「ギャラリー くじらのほね」で開催されました。

お邪魔してきましたよ。いやあ,眼福でした。ご本人とも少しお話ができてうれしかったです。

新倉さんが描く植物

新倉さんが描く植物は,その存在を強く主張しているわけではありません。いわば,「ただそこにいる」。

––しずかに佇み,時には風にそよいでいる。

そんな風情ですが,それでも絵の中には,植物の存在がくっきりと浮かび上がってきます。

いえ,植物が「そこにあるようだ」というのも,ちょっと言葉足らずかもしれません。単なる写実を超えて,植物の影,息づかい,そういうものがキャンバスに浮かび上がってきているように感じられるのです。

晩秋の植物たち

今回の個展でテーマとして取り上げられていたのは,「晩秋の枯れゆく植物」。私たちが見逃してしまいそうなこの季節の植物が描かれます。

秋の終わり,ちょっと乾いてシワが寄ってきたコシアブラの実の感触が伝わってくるみたいです。それも不思議なことに,実物を目の前にした時以上に感触が手に蘇ってくるみたい。

山を歩いていると,森の中でこんな植物によく出会います。でも多くの場合,それを気にも止めずに通り過ぎてしまいますよね。でも新倉さんは,その存在を見事に浮かび上がらせています。

枯れた紫陽花。存在感が際立っています。枯れた対象を描くことで,逆説的に植物の生命について思いを馳せたりします。

細部を描き込んでいるわけではなく,全体として淡いトーンなのに,存在感と立体感が見事に再現されています。写真に解像度を求めるのとは全然違うアプローチ。

僕たちは普段写真を撮りながら「解像感がうんたらかんたら」って言いがちですが,それが恥ずかしくなるようです。「対象を浮かび上がらせるのはそこではないんだよ」ってね。

印象的なのが,枯れた花びらの一部にちょっと入っている差し色。これは「垂らしこみ」の技法を用いて描かれているのかな?

実際 “枯れた紫陽花” にはこんな差し色が入っているから写実的でもあるんですが,でも本質はそこではないんでしょうね。この差し色は,かつて紫陽花が瑞々しく咲き誇っていたことを暗示しているのでしょうか。

枯れゆく紫陽花の寡黙な誇りなのかも。

霜を前に明るく輝く

新倉さんの絵を「淡い」ってさっき書きましたが,それだけではありません。この絵「霜前明輝」には金泥が用いられており,華やかさも感じられます。そして輝く植物が,背景の淡いブルーからくっきりと浮かび上がるのです。

ツイートでも触れられているように,この絵の色合いは,実物と写真で印象がかなり違います。金泥の輝きと背景のブルーの鮮烈な対比とか。

「霜前明輝」ってすごいタイトルですね。霜が降りる季節を前にして,枯れゆく植物が輝いている…。晩秋の植物の姿に,こんな鮮烈さを見出すってすごいなあ。

いえ,「晩秋の植物」は決して命尽きる前の寂しい存在ではなく,それ自身の誇りに満ちたものだということなんでしょうか。その「誇り」を決してひけらかしたりしないけれど。

ギャラリーにいた方がこんなふうに仰っていました。「まるで絵の中に入っていくようだ」。

その静かな佇まいゆえに、絵がこちらに迫ってくるのではなく、自分が絵に引き寄せられていく。そして絵の中に入って,自分が迫って行っても、やっぱり植物はただそこにある。

ギャラリーをあとに

いつも絵の展覧会を見ると思うのが,自分の語彙の無さ。もう少し気の利いた感想を伝えることができたらいいのになあ,と思います。修行修行…。

このツイートの2枚目の写真にあるような,現代的な感覚を感じさせる絵もあって,素敵なひと時でした。

 

おわりに

今回の個展では,この季節(晩秋)の植物が描かれていたので,よりいっそう季節を感じることができました。

最近新倉さんは,長野にアトリエを構えたそうです。今回はそちらで描いた絵が大部分だと。信州のキリッとした空気の中の植物だったんですね。眼福でした。

どうもありがとうございました。

 

こちらも見てね

www.sunsunfine.com

www.sunsunfine.com

www.sunsunfine.com