前記事「【奥多摩・奥秩父】初冬の雲取山〜飛龍山を縦走してきました––1日目:鴨沢から雲取山荘へ」の続きです。
2日目は雲取山から奥秩父主脈縦走路を飛龍山まで歩き,ミサカ尾根を辿って丹波山村へ下山します。けっこう歩きごたえのあるルートです。
- 雲取山でご来光を迎えます
- 飛龍山への道をゆく
- 飛龍山を越えて
- ミサカ尾根を下る
- でんでえろの尾根
- 宇宙人に占拠された村,丹波山
- 奥秩父主脈縦走路,残すところは甲武信岳〜国師ヶ岳のみになりました
- おわりに
- 2日目記録
この地図の青線のところになります!
雲取山でご来光を迎えます
縦走2日目。3時45分に起床です。
かなり冷え込んだようだけど,–4°Cリミットのシュラフ+エスケープヴィヴィのシュラフカバーでよく眠れました。
フライシートが一部バリバリに凍っています。そんなテントを撤収して,夜明け前の山道を歩き始めましょうか。
白い息を吐きながら,ヘッドランプで登っていきます。頂上に着いたのは6時20分。あと10分ちょっとで朝がやってきます。
雲取山はかなり冷え込んでいるみたい。テント場から登ってくる20分の間に,ショルダーハーネスに付けたペットボトルの水が凍りはじめています。
時刻としては日の出前ですが,富士山の頂上部には陽が当たり始めました。
下界はまだ眠っているのに,富士山だけ目覚めたという感じ?
そして,こちらも夜明けを迎えます。石尾根の向こう,雲海からご来光!
太陽に照らされた石尾根縦走路。地面は霜で覆われているようですね。一面真っ白く見えています。
石尾根の向こう,シルエットになっているのは鷹ノ巣山,御前山,大岳山ですね。
頂上にある避難小屋も朝を迎えます。避難小屋に泊まった人かな?扉から出てきて朝日を眺めています。厳粛な雰囲気の中,みんな無言です。
遠く南アルプスにも陽が差し始めました。カメラに超望遠レンズをつけて,ズームアップしてみます。今回は超広角レンズとアクションカムはうちに置いて,望遠レンズを持ってきました。
左が聖岳,中央が赤石岳ですね。すでに真っ白になった山肌が,朝日に染まっています。右側,上部が雲で覆われているのは悪沢岳ですね。この山域を歩きたいという思いは募るばかり。
こちら白峰三山。右から北岳,間ノ岳,手前の飛龍山で稜線が隠れていますが,左に見えているのが農鳥岳です。
この稜線は9月に歩きましたが,爆風に叩かれて大変な思いをしたっけ。こちらにもリベンジ山行しないとな。
北岳と間ノ岳をアップで写してみましょうか。日本で2番目に高い山と3番目に高い山です。
さらに右には仙丈ヶ岳と甲斐駒ヶ岳。南アルプスの北の端になります。
甲斐駒はあんまり雪をつけていないですね。地形が急峻だからなのかな?
「南アルプスの女王」こと,仙丈ヶ岳をアップにしてみます。
ここはひと月ちょっと前に登りました。この時は天気に恵まれて,素晴らしい稜線歩きだったなあ。
すでに真っ白に雪化粧してるんですね。あれから季節が進んだかと思うと,なんだか感慨深いです。
南アルプス随一のイケメン山,甲斐駒ヶ岳もアップで。どこから見ても端正な姿ですねえ。
こちらはこれから歩く飛龍山。なかなかカッコいい山容だと思います。
それにしても,アップダウンのきつそうな稜線を越えた向こうに座していますね。今日はなかなかキツい行程になりそうです。
朝の山頂は,寒いけど見事な眺めでした。最後に富士山をめでたく撮影したら,縦走路を西へと歩き始めましょう。
飛龍山への道をゆく
まず雲取山頂を,西に下って急降下します。雲取山には何人か人がいましたが,ここから先は静かになり,以降ずっと一人になりました。
まだ冷え込んでいるせいか,カラマツの霧氷が朝日に輝いてなんとも美しい。
雲取山から下りていくとすぐに樹林帯に入りますが,こうやってカラマツ林の間に,時々富士山が顔を覗かせてくれます。
森の中に続く奥秩父主脈縦走路。この道は延々と伸びていて,長野県まで達しています。
その東端の方を歩いていると思うと,ちょっと感慨深い。
30分ほど下ったところが三条ダルミ。三条の湯から登ってくる登山道が,ここで縦走路に合流します。
三条の湯から雲取山に登った時の話はこちら↓
ここは森が途切れて視界が開けるので,奥秩父の山並みの向こうに富士山が見えて気持ちいいです。
三条ダルミを過ぎ,森の中に続く道をたどります。絶景が広がるわけでもない,高山植物が咲き乱れるわけでもない。でも奥秩父の道は渋くて味があります。
三条ダルミから30分ほど行くと,草原が広がった平坦地に出ます。ここが狼平。昔は,ニホンオオカミがここを駆けていたのかな?そんな想像を掻き立てられるところです。
ここで行動食をとって,さらに西へ。ちょっとアップダウンが出てきたかな?
道は時おり霜柱が立っているくらいで,アイゼンを使う必要はありません。サクサク歩けてありがたいです。
雲取山から飛龍山へ向かう稜線は,途中に小ピークをいくつかかけています。3つのピークが連なったところが三ツ山。そのうちの1つ目のピークが目の前に姿を現しました。
むむむ,結構高低差もあるし,むちゃくちゃそそり立ってるんですけど。
あれ登るのぉ…?
実は縦走路は稜線から少し外れたところをトラバースしていて,「一の峰」を直登するわけではありません。
でもこの区間はけっこう険しく,急斜面に桟橋がかかっているところもありました。
「一の峰」を越えても岩が露出した急斜面のトラバースが続きます。道はよく整備されていますが,谷側はかなり切れていて,こけたらヤバそう。
そして三ツ山の「二の峰」が登場。今度もまたそそり立ってますね。
今度こそ,あれ登るのぉ…?
今度こそ,(トラバース気味ながらも) ピークに向かう登りです。かなりの急登になりました。「二の峰」の直下まで登ってきましたよ。
「二の峰」のピークがすぐそこに見えています。いったん縦走路を外れますが,登っておきましょうかね。
ピークに登ると見晴らしがよく,雲取山がよく見えました。すでにけっこう歩いてきましたね。
ここでもフジッサーン! /^o^\
富士山の手前に見えている尾根は,小金沢連嶺でしょうか。あそこも歩いてみたいけど,奥秩父主脈のトレースが繋がってからかな。
そして丹沢山塊。近いんだけど,奥多摩に来ることが多くて,実は丹沢には一度しか行ったことがありません。夏はヒルが怖いし。
さて,三ツ山を越え,縦走路をさらに西へと向かいます。この道は渋い「山旅」という感じで,なかなかいいですね。
歩いていると,だんだん無心になってきます。霜柱を踏んで,深い谷を覗き込んで…。
三ツ山と飛龍山の鞍部である「北天のタル」に到着です。
三条ダルミからここまで,距離の割には時間がかかりましたね(2時間以上かかっています)。細かいアップダウンや岩が露出したところなどもあって,なかなか大変な道でした。
北天のタルから奥多摩石尾根方向を振り返ります。写真中央のピークが七ツ石山ですね。
ところで奥多摩〜奥秩父にかけて「タル」とか「タルミ」という地名がそこかしこにあります。三条ダルミ,北天のタル以外にも大弛峠(おおだるみ峠)とかね。
これ,鞍部を表す言葉なんですね。「そんなにだらだら歩いてタルんどる!」って怒られてるわけじゃないのでご安心を。
飛龍山を越えて
さて,北天のタルからいよいよ飛龍山への登りに入ります。こんな岩の段差を乗り越えるところもあります。雲取山周辺とはだいぶ様相が違いますね。
縦走路は,稜線の南側をトラバースするように続きます。その途中で右に分かれる踏み跡があり,「山頂近道」という小さな道標。
ここを右に入って飛龍山の頂上を目指しましょう。
頂上への踏み跡は比較的はっきりしていますが,念のためピンクテープを見失わないように気をつけます。
分岐点から15分くらいかな?樹林帯を登っていくと飛龍山 (2077 m) の頂上に到着です。
飛龍山の頂上はどんなところかって?
この通り,木々に覆われて展望はありません。うん,地味ですね。
でも,ここまで深い森の中を歩いてきて辿り着く場所にふさわしい気もします。これも味。
写真を撮って水分補給をして。少しだけ休んだらまた西へ歩みを進めましょうか。森の踏み跡を緩やかに下っていくと…
鹿さん登場。しばらく見つめあった後,この子は悠々と森の中に消えていきました。
飛龍山から標高にして100 mほど下り,再び縦走路と合流したところに,小さな祠がひっそりと祀られています。これが飛龍権現。昔から麓の集落の信仰を集めてきた場所のようです。
お酒がお供えされているあたり,今も地元の人がお参りに来ているのでしょうか。ここは登ってくるのが,かなり大変なところですけど。
ミサカ尾根を下る
飛龍権現は分岐点でもあります。尾根に沿った縦走路は延々と長野県まで続きますが,ここで進路を左に取って下山します。ミサカ尾根を下るルートです。
ミサカ尾根は「御坂」尾根でしょうか。麓の丹波山村から飛龍権現へお参りする,長い坂道なのかもしれませんね。参道というより険しい修験道という感じですが。
下りはじめは大きな岩がゴツゴツの尾根を急降下していきます。険しいですよ。
いったん高度をガッツリ下げたあと,前飛龍へ登り返しが始まります。これがなかなか堪える…。
ここは日陰になっているので,こんな見事な霜柱がありました。キノコみたいな形ですね。
木の根っこ祭りになっているところも乗り越えていきます。このあたり,石楠花がいっぱいです。5月頃はきれいでしょうね。
岩まじりの尾根を登り返して,11時35分,前飛龍に到着です。
ここは岩が露出した小ピークで,好展望です。ちょうどお腹も空いたので,ここでお昼ごはんにしましょうか。
岩に腰掛けてチーズなんぞを齧っていると,青年が一人下ってきました。雲取山を出てから,初めて出会う人です。三条の湯から北天のタルに登り,飛龍山から下ってきたとのこと。
前飛龍の眺めを楽しんだら下山再開です。
前飛龍の下りは,岩場の急降下から始まります。ちょっと怯んでしまうくらいの傾斜です。まだまだ要注意ですね。
急坂はしばらく続きますが,やがて熊倉山へ向かう緩やかな下りになります。
前飛龍から1時間弱,最後にちょっと登り返して熊倉山。樹林帯の静かなピークです。
ここまでくれば岩場はもうないので,ちょっとは気が楽でしょうかね。
ただ最近いろんなところでクマさんが出没しているので,「熊倉山」という名前がちょっと気になります(笑…いや笑い事ではないな)。
さらに下っていくと,木の間越しに三ツ山が見えます。あれを越えてきたのか…やっぱりアップダウンあったよね。
ところでこの辺り,落ち葉がすごいことになっています。ところによっては,落ち葉に脛くらいまで埋まります。
落ち葉を「バサッ!バサッ!」と豪快にかき分けて歩きます。葉っぱをわざと蹴散らしたりして,小学生かっ!…道が落ち葉で覆われていてトレースがわかりにくいところもあるので,ピンクテープを見失わないように気をつけながらね。
そんな初冬の森を抜けると,サヲラ峠に到着です。ここでひと心地。
道標には「サヲウラ峠」と表記されていますね。漢字だと「竿裏峠」ということみたい。
ここで三条の湯へ向かう道が左に分かれます。また右に折れて,丹波山へ直接下ることもできます。
今回はここを直進。尾根に沿って「丹波天平」へ向かいます。
でんでえろの尾根
サヲラ峠から,幅広い尾根が東へ伸びています。あたりはカラマツの森。時おり緩やかなアップダウンを交えて30分,再び小雪がちらつき始めた中を歩きます。
すると辿り着くのが,こんなだだっ広いところ。尾根の上で野球とサッカーが同時にできちゃうんじゃないかってくらいの場所です。
ここが丹波天平。…これ,「たば でんでえろ」と読みます。初見ではまず読めないですね。
初めてこの地名を知った時,単なるべらんめえ口調の読み方なのかな?と思ったんですが,どうやらそうではないみたい。
丹波山のTさんに教えていただいたんですが,「でんでえろ(天平)」とは「天が平らになるところ」で,「麓と山の世界の境界線」を意味しているようです。
そして「でんでえろ」は,京都などにある「蓮台野 (れんだいの)」––(蓮台に乗って浄土へゆくということから) 墓地,現生と彼岸とのあわい––に通じているとも。
露と消えば れんだいのに をおくりおけねがふ
心を名にあらはさん(「山家集」から)
さらに「でんでえろ」は姥捨ての話とも繋がっており,岩手の遠野にある「でんでら野」(姥捨の里) との関連も指摘されているようです。
遠野のでんでら野は,集落の中,生活の場からほど近いところにあります。遠野では(あるいは他の地方でもそう遠くない昔には),生と死のあわいが身近なところにあったということなんですね。
山口、飯豊、附馬牛の字荒川東禅寺および火渡ひわたり、青笹の字中沢ならびに土淵村の字土淵に、ともにダンノハナという地名あり。その近傍にこれと相対して必ず蓮台野(でんでらの)という地あり。昔は六十を超えたる老人はすべてこの蓮台野へ追い遣るの習ならいありき
(柳田國男「遠野物語」から)
麓の丹波山村と山とのあわい,生活の場と姥捨ての場とのあわい,そして生と死のあわいが,このだだっ広い丹波天平であるということなんですね。
丹波山村には,丹波天平の他にも「保之瀬天平」,「高尾天平」があります。狼信仰に加えて,こんな話が残っている,とても興味深いところです。
西に傾き始めた陽の光に,僅かに残った葉っぱが照らされています。この葉っぱも,生と死のあわいにいるということなのか。
倒木に腰掛けて,そんなことを考えながらしばらく休憩しました。それでは丹波山へ,最後の下りにかかりますか。
丹波山へ下る道は,急斜面を九十九折りに続きます。なぜか調子がよく,駆け下るように下山しました。
15時ちょっと過ぎに,登山口である丹波山小学校の裏手に到着です。
宇宙人に占拠された村,丹波山
バスの時間まで少しあるので,青梅街道に沿って村役場まで歩いてみます。初冬の丹波山散歩です。
静かな村。澄んだ空気に清涼感を感じて好きです。
ところで歩きながら見上げると,電柱の上にことごとく宇宙人が陣取っています。この村は,宇宙人に占拠されているようです。
これは丹波山村のマスコット,タバスキー。もちろん丹波山の「丹」の字を模ってデザインされているんです。
タバスキーは,地域のマスコットキャラとして出色の出来だと以前から思っています。もっと広く知られてもいいと思うんですが,このままひっそりと村を占拠しているのも悪くないかな。
村役場でトイレをお借りしたんですが,役場の中にもタバスキーがいました。存在感,あるね(笑)。
また村役場の一角に,地元に関連する資料が飾られています。
その中で特に興味を惹かれたのがこれ。旧七ツ石神社の一部を復元したものです。
再建される前の七ツ石神社はこんな姿 ↓ だったんですよ(2016年撮影)。
風雨に朽ちかけていた神社がこんな形で残されて,地元に残り続けるって素敵ですね。
再建された七ツ石神社と御眷属を描いたお皿も飾られています。もちろん玉川麻衣さんの絵ですね (^◡^)。
丹波天平と村役場。飛龍山を下ったあとも,この地方の魅力を感じることができて楽しかったな。
その後村役場前発のバスに乗り,奥多摩駅前の「VERTERE」でクラフトビールを飲んで帰還と相成りました。おつかれさま!
奥秩父主脈縦走路,残すところは甲武信岳〜国師ヶ岳のみになりました
さて,この記事の最初に触れた奥秩父主脈縦走路。西は金峰山から東は雲取山まで延々70 km以上続いています。
この山域には何度か通って,その稜線に足跡をつけてきました。↓ 赤い線が今まで歩いたところ。
今回雲取山から飛龍山を歩き,残すところは甲武信岳〜国師ヶ岳のみになりました。ここを歩けばトレイルが瑞牆山荘から奥多摩駅までつながります。来年あたり行けるかな?
この縦走路を,一度「通し」で歩いてみたい気持ちもありますが,4〜5日の行程になるのでなかなかね…。
おわりに
奥秩父は,アルプスのような絶景が続くわけではない地味な山域なんですが,シブい味があります。それは深い森だったり,苔むした岩だったり。
下りてくるとまた行きたくなる,不思議なところなんですよね。
特に今回歩いた飛龍山の麓・丹波山には,いろんな伝承が残っているのも面白いですね。
一年の「締め」に,こんなところを歩けてよかったです。
2日目記録
2023年12月3日(日)
雲取山荘出発 (6:00) – 雲取山 (6:20–7:05) – 三条ダルミ (7:30) – 狼平 (8:00–8:15) – 北天のタル (9:50–10:05) – 飛龍山 (10:35–10:40) – 飛龍権現 (11:00) – 前飛龍 (11:35 –11:50) – 熊倉山 (12:45) – サヲラ峠 (13:20) – 丹波天平 (13:55–14:10) – 丹波山小学校登山口 (15:05) – 丹波山村役場 (15:10)
休憩を除いた総行動時間 7時間20分