昔々,万葉の時代に大伴家持は詠みました。
もののふの 八十おとめらが 汲みまがふ
寺井の上の かたかごの花(巻19,4143)
この歌で歌われている「堅香子(かたかご)」はカタクリの花を指します。
春まだ浅い頃,桜が咲く前に花を開くカタクリの花。
可愛らしくて可憐ですよね。
そんなカタクリの花を,福島市にある「小鳥の森」で愛でてきた話です。
カタクリを見に行こう-福島・小鳥の森へ
今年は桜の便りが少し遅め。4月初めの福島は,まだ桜があんまり咲いていません。
春浅いこの時期,桜の前に花を咲かせるのがカタクリです。
淡いピンク色とそり返った花びら。僕は儚げなこの花が好きでなあ。
福島にはカタクリの咲くところがいくつかあります。そのうちの一つ,「福島市小鳥の森」に行ってみました。
小鳥の森は阿武隈川の東岸,こんもりした山の斜面にあります。
その名の通り,ここには野鳥もたくさんいる模様。野鳥観察の下見も兼ねて行ったんですが。
小鳥の森に着くと,さっそく目の前をルリビタキが飛んで行きました!しばらく待てばご対面できそうでしたが,今日はカタクリが目的なので,森に入ります。
小鳥の森には,カタクリが群生しているところが3ヶ所くらいあって,そこに差し掛かると,遊歩道の両側にいっぱい咲いています!
可愛らしい花がうつむいて咲いています。うーんラブリー。
春を告げるカタクリ
キュートなカタクリの花は,いかにも春を告げる妖精のようです。
最初に紹介した大伴家持の歌も,春の明るい情景が目に浮かぶようでいいですね。
大意はこんな感じでしょうか。
たくさんの少女たちが,お寺で水を汲み,行き交っている
その井戸のかたわら)に咲いている可憐な堅香子の花よ
仙台市民だった時,青葉山の一角に(多分ほとんど知られていない)カタクリの群生地を見つけて,毎年春になるとこっそり通ってたんですけどね。
あの場所,今もあるかな。
うつむいた花をアップにしてみましょう。
花の真ん中近くに,ギザギザの模様が入っているのもいい!
おしべについている花粉は濃い紫色ですね。桜の花粉が黄色いのとは違います。
このおしべは紫外線を吸収しやすく,ハチの目に止まりやすいんだとか。そうして受粉を促すんですね。
小鳥の森に咲き乱れるカタクリの花たち。春の妖精がダンスをしているようではありませんか。
実際,カタクリはニリンソウやキクザキイチゲなどとともに「スプリング・エフェメラル」(春のはかない命)と呼ばれています。
姿を見せるのが春のごく短い期間だから,こんなふうに呼ばれるんですね。
スプリング・エフェメラル––カタクリの生活史
カタクリが地上に姿を現すのは,春先の4–5週間程度しかありません。その間に光合成を行なって栄養を溜め込んだカタクリは,その後姿を消して,地中で休眠して過ごします。
光合成を行う期間が短いために,その間に溜め込める栄養分は僅かで,カタクリが種から育って花を咲かせるまでに,8–9年程度かかるそうです。
そうやって咲かせた花の姿も,こんなに儚げで…。愛おしくなってくるよなあ。
おわりに
カタクリの球根は良質のデンプンを含んでおり,昔は片栗粉をここから撮っていたようですね。もちろん今は,デンプンはじゃがいもなどから取りますが。
それから葉っぱはおひたしにして食べていた時期もあるようです。
万葉の歌にも歌われていたように,昔から身近な植物だったんですねえ。
でも今はその数が減っていて,多くの都道府県でレッドリスト指定を受けているようです。
カタクリの花,ずっと咲いてくれるといいですね。
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