そろそろ秋も終盤。山が完全に冬の装いになる前に,もう一度くらいアルプスに登っておきたいなあ。
そう思って,南アルプスの女王こと仙丈ヶ岳に登ってきました。快晴のコンディションのもと,ご機嫌な山行となりました。
- 仙丈ヶ岳について
- 仙流荘に着きました。バスに乗り換えて北沢峠へ
- 暗い中を出発,まず小仙丈ヶ岳へ
- 仙丈ヶ岳に登ります
- 大仙丈ヶ岳を往復してこよう
- 下山します––小仙丈ヶ岳まで
- 下山の後半です
- テントに帰着しました
- おわりに
- 山行記録
仙丈ヶ岳について
仙丈ヶ岳は南アルプス北部にある,標高3033 mの山です。おおらかな山容と顕著なカールを持ち,その優美な姿から「南アルプスの女王」と呼ばれています。
またこの山は北沢峠を挟んで甲斐駒ヶ岳と対峙する位置にあります。そこで北沢峠をベースにして,この2座を続けて登る人も多いようです。
首都圏から北沢峠へアプローチする場合,従来なら甲府からバスを乗り継いでいくのが便利です。しかし南アルプス林道の山梨県側が2019年の台風19号で崩落し,現在も回復の目処が立っていません。このため現在は,長野県側の仙流荘からバスで行くのが唯一の方法になっています。
今回は1日目の夕方に北沢峠近くの長衛小屋に入ってテント泊,2日目に仙丈ヶ岳を往復する計画です。
仙流荘に着きました。バスに乗り換えて北沢峠へ
仙流荘に着きました
10月27日。東京から中央道を走って,13時40分くらいに仙流荘に着きました。駐車場は仙流荘を過ぎて少し行ったところにあります。5日間までなら1000円です。
ここで小型バスに乗り換え。環境保護のため,南アルプス林道には自家用車の乗り入れが禁じられているのでね。
乗ったのは14時20分の最終便。北沢峠まで,約50分かかります。
バスの車窓から絶景を眺める
バスは戸台川の渓谷に沿った林道を登っていきます。両側の森は,いい感じに色付いていますね。これも紅葉登山ということでいいでしょうか。
見上げれば美しい三角錐型の甲斐駒ヶ岳。早くもワクワクしてきました!
バスの運転手さんは,眺めがいいところに来ると車を止めて案内をしてくれます。
僕も素早く窓を開けて写真を撮ったり,山の空気を胸深く吸い込んだり。
甲斐駒ヶ岳を縦で撮った一枚↑。ちょうど山の中腹が紅葉真っ盛りなようです。
頂上付近や谷筋が白く見えているのは,雪ではなくて(頂上あたりには少し積もっているかも),この山が花崗岩でできているからです。
こちら鋸岳。ギザギザの稜線を持つ岩山で,登るのが極めて困難な一座です。
バスが高度を上げると,甲斐駒がその姿を変えていきます。いつ見てもかっこいい山だなあ。
仙流荘を出てから50分くらいで,バスは北沢峠に到着。仙流荘の標高は約800 m,北沢峠は2000 mだから,1200 mくらい運んでもらったことになりますかね。
これは楽ちんですね。
今夜の泊まり地である長衛小屋は,ここから山梨県側に10分くらい下っていったところにあります。
長衛小屋テント場に幕営します
小屋に着いたらさっそく受付をして,テントを設営。小屋から少し離れた静かなところに幕営しました。
遠くに甲斐駒ヶ岳の衛星峰,摩利支天が見えますね。
テントの背後には,明日歩く稜線が見えています。けっこう登らないといけませんね。
こんもりしたところがありますが,あれが頂上ではありません。まだまだ登っていく必要があります(汗)。
ここ長衛小屋のテント場は,水が豊富なのが最高。南アルプスの天然水が飲み放題です。
風も吹き込んでこないし,過ごしやすいですよ。ひと月前に農鳥小屋のテント場で爆風に叩かれたから,余計に過ごしやすく感じます。
この辺りは,眺めの良い稜線上のテント場と水が豊富で過ごしやすい樹林帯のテント場,一長一短ですかね。
さて今日の行動は10分足らずで終わり。明るいうちから晩酌を始めます (^ ^;)。小屋で買った甲州ワインが美味しい。
いい感じで酔っ払いました。明日は早いので,19時過ぎにはシュラフに入りました。おやすみなさい zzz。
暗い中を出発,まず小仙丈ヶ岳へ
ヘッドランプをつけて行動開始
2日目は2時45分起床。かなり冷え込んだけど,今回はシュラフカバーとしてエスケープヴィヴィを使用したせいか,よく眠れました。
いつものようにもぞもぞとシュラフをたたみ,いつものようにコーヒーを沸かして,いつものようにワッフルとチーズの簡単な朝食を摂ります。
朝食を食べたら出発の準備です。テントは張ったまま,チェーンアイゼン,水と食糧,レインウェアとダウンジャケットをザックに詰めます。万が一の時のために,エスケープヴィヴィも入れておきましょうかね。
4時ちょうどにテントを出発。この橋を渡って樹林帯の登山道に入ります。
ヘッドランプの灯りの下,樹林帯の登山道を登ります。…暗いので途中の写真はありません。
「山と高原地図」によると,最初のチェックポイント「藪沢大滝の頭」まで,標準CTが2時間。その先,小仙丈ヶ岳までさらに1時間。この間くらいで森林限界を越えそうですね。日の出が5時50分くらいなので,コースタイムを巻いていきたいところです。
森林限界を突破,新しい朝を迎えます
暗い森を抜けて,藪沢大滝の頭を5時半に通過。もう少し登って「6合目」の標識のあたりで森林限界を越えました。それと同時に,東の空が明るくなってきました。
鳳凰三山の上の空がうっすらと焼けてきます。
「爆焼け」とはいかないけど,いかにも「初冬の朝」といった雰囲気の静かな夜明けです。
↓ 手前から小太郎尾根,鳳凰三山,そして雲海の向こうに富士山。
左前方には北岳と間ノ岳が,3000 mを越える「天空の縦走路」を見せています。2つの峰の鞍部から朝の光が差し込んでいますね。これはいい朝,Good Morning, Southern Alps!
そして夜明けといえば,やっぱりこちらを写さないわけにはいかないよね。
そう,フジッサーン! /^o^\
もっと真っ白になっているかと思ったら,意外に上の方しか冠雪していないですね。
少し引いて,白峰三山の稜線を写しましょう。ひと月前に歩いたのはあそこ。
この一枚に,日本で一番高い山(富士山),2番目に高い山(北岳),そして3番目に高い山(間ノ岳)が写っています。うーんこれはすごい眺めだ。
実は今回,もう一度白峰三山縦走に行くことも考えたんです。ひと月前は天気が微妙だったからね。
この天気の元,北岳から間ノ岳の稜線を歩いたらすごかっただろうなとも思うけど,ここ仙丈ヶ岳の稜線も素晴らしい!白峰三山はまた今度ね。
小仙丈ヶ岳に到着
さて,テントを出発してから2時間20分,6:20に小仙丈ヶ岳 (2864 m) に到着です。
ここは仙丈ヶ岳を目の前に望める素晴らしい場所。カールの斜面が朝日を浴びて輝く様子は本当に美しく,南アルプスの女王の名に恥じない姿です。
ここで出会った若い人たちのパーティーと声を掛け合いますが,「最高ですね!」しか言葉が出てこない(笑)。
振り返れば甲斐駒ヶ岳。こちらもいい眺めです。つい三脚を立てて自撮りしちゃいました。
これはけっこうお気に入りの一枚。甲斐駒の向こうに,八ヶ岳連峰もしっかり見えていますね。
うーん,素晴らしい朝だ!
仙丈ヶ岳に登ります
仙丈ヶ岳に向かいます
それではあらためて,仙丈ヶ岳に向けて歩き始めましょう。ここからは両側がひらけた素晴らしい稜線歩きになります。
小仙丈ヶ岳から一度標高を落とし,あらためて仙丈ヶ岳への登りになります。長い登りですが,この眺め!何を苦にすることがありましょう。
歩いても歩いてもなかなか着きませんが,むしろこの稜線がずっと続いてくれたら…と思うくらいの気持ちよさ。
右手にはやはり朝を迎えた中央アルプス。その向こうに真っ白い山が見えていますが,これは木曽御嶽山ですね(御嶽山はもうこんなに真っ白なのか!と驚きました)。
振り向けば小仙丈ヶ岳の向こうに甲斐駒ヶ岳,その向こうに八ヶ岳。さらに遠く右の方には,奥秩父山塊も霞んでいます。奥秩父方面にはしばらく行っていないなあ。
仙丈ヶ岳に登頂しました!
標高3000 mあたりまで登ってきました。頂上近くでは,女王様は雪化粧をされているようです (^◡^)。美しい!
登山道が日陰になるところでは積もった雪が凍結していますが,特に問題はありません。ザックに忍ばせておいたチェーンアイゼンは,結局使うことはありませんでした。
ところで前回の白峰三山に引き続き,今回も好調です。3000 mまで上がっても息が切れない。どうした自分? 若返ったか?
さて小仙丈ヶ岳を出てから1時間。8時ちょうどに仙丈ヶ岳(3033 m)に到着しました!
これまで見えていなかった,南側の稜線が姿を表します。この尾根を辿った先に見えているピークは,大仙丈ヶ岳(2975 m)です。名前に「大」がつくけど,本家仙丈ヶ岳よりもちょっと低い。
北の方には,甲斐駒ヶ岳が変わらず凛と聳えています。仙丈ヶ岳が「南アルプスの女王」なら,甲斐駒は「南アルプスの貴公子」って感じでしょうかね。
また頂上には仏さまと文字が刻まれた石が置かれています。ここ仙丈ヶ岳も山岳信仰の対象になってきたんですね。
その石ですが,一番右側の石には「手力男命」と刻まれていますね。これはアマテラスが天岩戸に隠れた時に,岩戸をこじ開けた神様だったっけか。
再び目を上げて西の方を見れば,伊那谷と中央アルプス。日本の「中央構造線」を目の前にして,「アース」を感じますなあ!
中央アルプスは木曽駒ヶ岳しか登ったことがないので,他にも行ってみたいですね。空木岳とか興味津々。
大仙丈ヶ岳を往復してこよう
稜線をさらに南へ
山頂での眺めも堪能しました。体力的にも時間的にも余裕があります。大仙丈ヶ岳も往復してきましょうか。
大仙丈ヶ岳へ向かう道は,これまでよりも痩せた尾根になります。
特に西側は切れ落ちた岩場になっており,つまづいたりしないように要注意ですね。仙丈ヶ岳では,ここが一番の危険箇所かな。
鞍部近くには岩稜帯もありますが,特に問題はありません。このあたりは8月に行った大キレットで,だいぶ経験値が上がったかも。
30分弱の尾根歩きで大仙丈ヶ岳に到着。こちらから仙丈ヶ岳を見ると,そのボリュームある山容がよくわかります。
大仙丈ヶ岳から先には,仙塩尾根と呼ばれる長大な稜線が塩見岳まで続いています。ここはいかにも南アルプスらしい,深い森を縫うルートの模様。
また遠くには,累々と連なる南アルプス南部の山々。
南アルプス南部は容易に踏み込めない魔境です。こっち方面は南アというより,やっぱり「赤石山脈」という呼び方がしっくりきますね。
仙丈ヶ岳へ戻ります
ここ大仙丈ヶ岳でも眺めを堪能しました。それでは戻りましょう。
今回は縦走ではなく北沢峠からの往復です。ここからは「帰路」ということになりますね。
左側に切れ落ちる岩場を過ぎ,岩稜帯を過ぎ,仙丈ヶ岳本峰への登りをこなすと,仙丈ヶ岳の頂上が再び近づいてきました。
頂上はさっきよりも人が増えて賑わっているようです。いま頂上にいるのは,明るくなってから登ってきた人たちかな?
大仙丈ヶ岳を発ってから,やはり30分足らずで仙丈ヶ岳本峰に戻ってきました。
下山します––小仙丈ヶ岳まで
開放的な稜線を下る
それでは下山にかかります。夏期なら登りとはルートを変えて,馬の背ヒュッテ方向へ下ることもできるのですが,今の季節はそちらのコースは閉鎖中。登ってきた尾根をそのまま引き返します。
まず小仙丈ヶ岳まで行きましょう。雪化粧した尾根を下っていきます。両側が開けており,素晴らしい開放感。
右手にはずっと北岳と間ノ岳。今日はガスに飲まれることなく,ずっと姿を見せてくれています。
お昼近くなってもこれだけ天気が安定するのは,この季節ならではですね。
そして行手には,陽光を浴びる甲斐駒ヶ岳。下山はずっと甲斐駒に向かって歩く道となります。これは最高 (^◡^)。
鳳凰三山と甲斐駒ヶ岳を眺めながら下ります
甲斐駒の右には,早川尾根とその向こうに鳳凰三山。山の向こうに山また山。
南アルプスの谷は,深く切れ込んでいます。
尾根に続く道を下っていくと,甲斐駒ヶ岳がだんだん大きくなってきます。
端正な姿と,白く輝く花崗岩の山肌。その圧倒的な存在感に目を奪われて,視線を外すことができません。
もうカッコ良すぎです!イケメンマウンテン日本一は甲斐駒ヶ岳で異存がないよ。(次点で前穂高岳かなあ…)
甲斐駒ヶ岳から左(西)に伸びるゴツゴツの稜線は鋸岳。見るからにヤバそうな風貌ですね。実際にこの山にはバリエーションルートしかなく,登頂は困難を極めるようです。
仙流荘のバス乗り場にも,「鋸岳は,ロープ確保などの装備を持ったパーティー以外は入山を控えるように」という内容の注意喚起が掲示されていました。
鋸岳をアップで撮るとこんな感じ。山頂(第一高点)近くには稜線を貫通する穴が空いており,「鹿窓」と呼ばれています。写真ではわかりにくいけど。
小仙丈ヶ岳まで下りてきました。ここで行動食をとって,少し休憩。
仙丈ヶ岳の姿はここで見納めとなります。バイバイ。素晴らしい尾根歩きでした。
下山の後半です
好展望は続きます
小仙丈ヶ岳から下山の後半戦に入ります。もうしばらくの間は樹林限界より上を歩くので,いい眺めが続きます。
標高を下げてきて,鳳凰三山が自分より高く見えてきました。
ここには去年のちょうど同じ時期に登りました。その時も天気に恵まれて,素晴らしい縦走となりました。
ここまで来ると,早川尾根のアサヨ峰,栗沢山が,甲斐駒ヶ岳のすぐ近くにあることがよくわかります。
以前,サントリーの「南アルプス天然水」のCMで宇多田ヒカルさんが登ったという栗沢山*1。あそこから間近に見る甲斐駒はすごい迫力でしょうね!あっちにもぜひ登ってみたいものです。
葉っぱが落ちたダケカンバ林は幹のみが白く,冬の装いです。中腹は紅葉していますが,この辺は季節が進んでいるんですねえ。
さて,好展望タイムもそろそろおしまい。最後に甲斐駒ヶ岳をドーンととっておきましょうかね。白く輝く花崗岩がいいんだよなあ。
さらにズームして,ドアップでも一枚。今日はこの山の眺めにずっと楽しませてもらいました。サンキュー甲斐駒。
*1 最近サントリーの水の商品名から「南アルプス」が取れて「天然水」になったことに,みなさん気づいてますか?CMも北アルプス・白馬連峰の映像を使っていますよね。
樹林帯に突入
尾根に続く登山道をたどり,「6合目」まで来ると樹林帯に入ります。さらに「藪沢大滝の頭」を過ぎて,急勾配の下りになってきました。
ここからは,南アルプスの深い森を下っていきます。鬱蒼とした森ですが,差し込んでくる陽の光が気持ちいい。
時おり振り返ってみると,「こんなに急なところを登ったんだっけ?」と首を傾げてしまいます。朝は暗かったから,よくわからなかったよー。
いつも樹林帯の下りは黙々と歩きます。その分着実に標高を下げ,北沢峠が近づいてきました。
テントに帰着しました
テントに着いたのは13時5分。乗車予定のバスは15時なので,少しゆっくりしましょうか。
テントに入ってコーヒーを沸かしました。
そして長衛小屋の水場で靴を洗ったりトレッキングポールを洗ったりしてから撤収です。
撤収が終わったら北沢峠まで10分くらい登って,仙流荘行きのバスを待ちます。幸い臨時便が14時50分くらいに出て,15時半くらいには仙流荘に着きました。
仙流荘に着いたらお風呂に入ってコーラでも飲みますかね。このあとは車での移動なので,時間に追われないのは気分的に楽ですね。
仙流荘のお風呂を出ると,「南アルプスの石」が展示されていて,興味津々でした。
風呂上がりの体で外に出ると,紅葉した山に夕焼け雲。遠くに頭をのぞかせているのは鋸岳ですね。
長く,充実した1日でした。
おわりに
10月末の仙丈ヶ岳。好天に恵まれて,会心の山行となりました。この季節は荒れると怖いけど,晴れれば天気が安定するのでとても気持ちがいいですね。
来年もチャンスがあれば,どこかに行きたいなあ。
今回も体調は良く,終始気持ちよく歩けました。一番疲れたのは…帰りの運転かな(笑)。
山行記録
2023年10月27日
北沢峠 (15:15) – 長衛小屋テント場 (15:20)
2023年10月28日
テント発 (4:00) – 藪沢大滝の頭 (5:30) – 小仙丈ヶ岳 (6:20–7:00) – 仙丈ヶ岳 (8:00–8:25) – 大仙丈ヶ岳 (8:50–9:25) – 仙丈ヶ岳 (9:50–10:10) – 小仙丈ヶ岳 (9:50–10:05) – 藪沢大滝の頭 (11:55) – 仙丈ヶ岳登山口 (13:00) – テントに帰還 (13:05)
休憩を除いた総行動時間 6時間50分
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