前記事「【北アルプス・穂高縦走】大キレットに行ってきました––1日目:天狗原コースを登って南岳へ」の続きです。
山行2日目は核心部。大キレットを越えて穂高岳山荘まで歩きます。
- 朝の南岳でご来光を迎える
- 大キレットに突入します!––はじめは南岳の激下り
- 長谷川ピークを越える
- 飛騨泣きを通過して北穂高岳へ
- ライチョウに遭遇
- 大キレット通過,北穂高岳に到着!
- 北穂高岳〜涸沢岳間もヤバい稜線です––奥壁バンドを越えて最低コルへ
- 涸沢岳へ厳しい登りが続きます
- 穂高岳山荘の夜
- 2日目記録
朝の南岳でご来光を迎える
山行2日目は,2時45分起床。大キレットに行く前に,南岳に登ってご来光を見てきます。
外に出ると,テント場を覆っていた濃いガスも薄れてきたようです。
テント場から南岳までは,5分くらいで登れます。夜明け前,あかね色に染まり始めた空。山は雲海に包まれています。
穂高連峰もまずまずの見え具合。ちょっとガスがまとわりついているのが気になりますが…。
5時13分。ご来光です!
山の夜明けは,自分よりも低い位置にある雲が陽の光でオレンジに染まるのが大好き。言葉にならない美しさ。
雲一つない朝もいいけど,今日みたいに雲に包まれる朝も素敵です。
山肌を流れる霧も,朝の光に染まります。山の上でしか出会うことのできない,幻想的な時間です。
北の方を見れば,槍ヶ岳が夜明けを迎えています。槍の穂先が雲をたなびかせているようですね。カッコいい。
一方,こちらは今日歩く穂高方面。雲が沸いて,穂高連峰が隠れてきちゃいました。むむむ…。
しばらく待ってみたけど,穂高を隠す雲が取れることはありませんでした。大キレットがガスの通り道になっているみたい。
笠ヶ岳(西)の方向にガスが流れると,自分の影が映ってブロッケンが現れます!自分に後光が差して,菩薩になった瞬間です。
自分の影だけが映るので,面白くて手を振ってみたりポーズを取ってみたり,いろいろやります。…菩薩はそんなことしないか(笑)。
こちらは北西方向,裏銀座の山々です。鷲羽岳までは昨年行ったんですが,そのさらに奥にも興味津々です。水晶岳とか黒部五郎岳とか行ってみたいですねー。
気持ちいい朝の時間を満喫しました。一旦テント場に戻って荷物を回収し,本格的に始動します!
大キレットに突入します!––はじめは南岳の激下り
それではいよいよ大キレットに突入します。いっちょう気合を入れていきましょう。
最初は南岳の下り。いきなりすごい角度で下っていきます。激下り。
クサリ場やハシゴも出てきます。
このあとに難所が控えているので軽視しがちですが,ここの下りもすでにかなりハードです。ここは未明からヘッドランプをつけて歩くところではありませんね。
かなり下ったところで振り返ると,南岳がゴツゴツの岩場を見せて屹立しています。
頂上付近は穏やかな表情を見せる南岳ですが,こちらから見るといかつい岩山です。
実際この辺りの岩場を歩くと,「南岳は穂高の続きの山なんだなあ」ということがよくわかります。
似たようなことは奥秩父の金峰山に行った時にも感じたっけ。「瑞牆山は金峰山の続きなんだなあ」ってね。
視線を上げると,北穂高岳が風格のある姿を見せています。ところどころ雲をまとっているのが絵になりますが,あのあたりを実際に歩くとガスの中なのかな。
…というか,あのガスの中って,難所の「飛騨泣き」のあたりよね。
さらに下っていくと,だんだんヤバい雰囲気が出てきましたよ。なんだか奈落の底に降りていくという感じです。
一方背後の南岳はさらに高く聳えて,魔王の風格。ホント見る方向によって,ずいぶん印象の変わる山だなあ。
さっきまでは見下ろしていた笠ヶ岳も,標高を下げてきたせいか,だいぶ高く見えるようになりました。…それにしてもあっちはよく晴れてるな。
笠ヶ岳からだと,穂高はどんなふうに見えるんだろう。興味はあるんですけどね。あの山は登るのも降りるのも大変らしいので,どうも足が向きません(汗)。
行手の北穂も高く見えるようになってきました。頂上部はガスに覆われ始めていますが,岩尾根と緑のコントラストがきれいです。
鞍部まで下りてくると,「北ホ ⇄ ヤリ」のペイントが。うん,まあその通りなんですけど,ずいぶん大雑把な案内ですね (^ ^;)。
長谷川ピークを越える
ここから尾根は,いったん上りに転じます。同時に岩の表情が,だんだん厳しくなってきます。
ガスが流れる岩稜帯。そのガスの中にうっすらと見えてきた,切り立ったピーク。
あれは…アレですかね。第一の難所,長谷川ピーク。
登っていくにつれて,傾斜が増してきました。3点支持で登っていきましょう。
そして「おっ,ここはちょっと難しいな」と感じる登りが少しばかり続いたところで,長谷川ピークに到着です!
Hなピークじゃないよ(お約束)。
…なーんて軽口を叩けるのは,無事に降りてきたからであって,この場に立つとそんな気分にはなれないんですけどね。
ここからナイフリッジを通過して飛騨側に降下するのが,最初の核心部。
ナイフリッジの通過中は手が離せないので(比喩的な意味ではなく,文字通り岩から手が離せない),写真が撮れません。
頭に乗せたアクションカムの動画から切り出した画像でお届けします。
思わずウヒョー!って声が出る高度感。これは痺れます(それにしても DJI OSMO Action4 の 1/1.3 インチセンサー,画質がいいな)。
高度感と戦いながらジリジリと前進します。そして何とか核心部を抜けました。
いやあ,集中しましたよ。普段からこんなに集中して仕事をしていたら,もう少しエラくなれたかなあ。
核心部のあと,もう少し下ります。この写真が残ってるってことは,ここで景色を見る余裕が少しはあったってことかな(無我夢中だったのであんまりよく覚えていない)。
そして「A沢のコル」に到着です。南岳を出発してから2時間ちょっとで来ました。
ここは大キレットの中で,唯一ザックを降ろして休めるところです。落石には注意が必要ですが。
ここで一休みして,気分を整えたら再び参りますか。
飛騨泣きを通過して北穂高岳へ
A沢のコルから激しい登りに入ります。北穂高岳まで続く岩登り。
遠くから北穂を眺めたときに見えていたド迫力の岩壁は,ここから上なんでしょうね。
ところどころクサリが張られた岩場をよじ登っていきます。岩角をいくつか越えると,ウヒョ〜!またまたすごい高度感!
A沢のコルから40分ほど登ったあたりでしょうか。なんだかヤバそうなところが現れましたよ。
ここが2つ目の難所,飛騨泣きでしょうかね。
そもそも「飛騨泣き」という名前ですが,これは飛騨側に落ちたらまず助からないからという…って,やめてー。
ここは岩に打ち込まれたボルトやクサリも使って,割と強引に突破しました。
そうそう,飛騨泣きに取り付く直前のトラバースも,高度感があってちょっと怖かったな。
飛騨泣きを越えて一息つけるところまできました。ここで振り返ると,南岳と長谷川ピークがきれいに見えました。
緊張して周りを見る余裕がなかったけど,こんなきれいな景色のところを歩いてきたんですねえ。
このあとも,キッツイ岩登りが北穂頂上まで続きます。印象としては,飛騨泣きもその先の登りもひと続きの岩場という感じでしたかね。
延々と続く,垂直に近い登り。どんな傾斜なのかは,この写真↓を見ていただければわかるかと。
北穂が近くなると,標高は3000 mを越えてきます。足場はしっかりしているとはいえ,この高さで全身を使って登るのは本当にキツイ。
でもこれが「穂高を味わう」ってことなのかな。
ライチョウに遭遇
頂上近くはガスに覆われていて,遠望が効きませんでした。そんな中,おや?岩角にたたずむあのシルエットは…
ライチョウです!雛鳥を3羽つれて歩き回っています。
厳しい登りの中で出会った雷鳥のファミリー。癒されるぅ (^◡^)。
ライチョウって,人を恐れないんだね。登山道を行ったり来たりして,全然逃げない。
ガスの日は眺望が良くないけど,ライチョウがよく姿を現します。北アルプスにはこんな楽しみもあるからいいですね。
大キレット通過,北穂高岳に到着!
さてさて,キツイ登りでした。最後は岩場から北穂高小屋の裏手に飛び出します。ここで大休止。
ライチョウと戯れてた時間を考慮すると,南岳を出発してから正味3時間半くらいで着きましたかね。だいたい標準CTと同じくらいです。テント泊装備を担いできたことを考えると,まあまあでしょうか。
北穂高小屋は日本で一番高いところにある山小屋です。晴れていればテラスから槍ヶ岳方面の眺めが最高なんですが,今日はガスですね。
北穂小屋のテラスでゆっくりお昼ご飯を食べたあと,北穂高岳 (3106 m) の頂上に立ちました。眺望はなかったけどね。
大キレットの動画(約10分)はこちら ↓ ぜひフルスクリーンでご覧ください。
北穂高岳〜涸沢岳間もヤバい稜線です––奥壁バンドを越えて最低コルへ
次は涸沢岳へ続く稜線をたどります。北穂-涸沢岳の間は,人によっては大キレットよりも怖いと言うところ。
実際この稜線を北穂高岳直下(北穂分岐)から見ると,こんな岩稜です。ウヒョ〜迫力あるー!
尾根を隔てて,信州側と飛騨側で大きく天候が変わる様子が,この光景からうかがえます。面白ーい。
さあ,ここからいっそう慎重に参りましょう。
稜線を少し進むと「滝谷ドーム」。ここは信州側を巻きます。
飛騨側は日本三大岩場の一つ,穂高滝谷。 (他の2つは剱岳と谷川岳)「鳥も通わぬ滝谷」と形容された絶壁です。
ドームを超えたあたりで雨が降ってきました。さっきから若干あやしかったんですが。
うーん,こういうところで雨はイヤだなあ。岩が濡れるとスリップしやすくなるからね。だんだん強くなる雨の中を,足場を確かめながらゆっくりゆっくり進みます。
その雨がようやく弱くなってきたところで,奥壁バンドに差し掛かりました。
ここはこの稜線の難所の一つです。
奥壁バンド
滑落事故多発エリア
慎重に通過してください
岩につけられたペンキマークを外さないように注意して,切り立った岩場をトラバース気味に越えていきます。
濡れた岩の上の足場を,一つひとつ確かめながらの3点支持。ペースは上がらないけどしかたありません。
奥壁バンドの通過に15分ほどかかったでしょうか。ここを越えて少し下ったら最低コルです。
古びて錆びついた看板には「北ホ ⇆ 奥ホ」と書かれていますね。これまた大雑把な案内ですが,ようやく「奥穂」の文字が出てきたのはうれしかったな。
この辺りで雨が上がって,涸沢カールを望むことができました。涸沢ヒュッテの赤い屋根も見えています。
涸沢岳へ厳しい登りが続きます
さてお次は涸沢槍の通過。ここが2つ目の難所でしょうかね。涸沢槍は涸沢カールから見上げると鋭く尖っていますが,稜線から見ると上部が2つに割れています。その2つのピークの間を乗っ越していきます。
クサリのかかった岩場をよじ登り,2段のハシゴを越えて…。1つ目のハシゴは上部で岩が被っているので要注意かな。
ここはけっこう厳しかったですが,雨が上がって岩が乾き始めていたので助かりました。
涸沢槍を越えると息つく間もなく,涸沢岳の登りになります。ここで再び雨。
涸沢岳の登りも垂直に近いクサリ場の連続です。最後まで集中していきます。
頂上近くまでくると,またライチョウに遭遇。やっぱりガスがかかっているときによく出てくるんですね。
キミ,北穂で出会った雷鳥とは羽の模様が違うんだね。
さて,濡れた岩を踏みながらじっくり前進してきたせいか,時間がかかっちゃったな。北穂高岳から3時間以上かかって涸沢岳 (3110 m) に到着です。
涸沢岳の頂上は細長くて,三脚を立てて自撮りをすることができません。それでこんな感じで,スマホを使って証拠写真。
降ったり止んだりの雨は,ここではちょうど上がって,来し方を振り返ることができました。右のツインピークが北穂高岳。あそこから続く稜線をずっと辿ってきました。
遠くの槍ヶ岳は,雲に隠れたりチラリと姿を見せたり。
これで2日目の核心部は終了。いやあ緊張の連続でした。
穂高岳山荘の夜
涸沢岳の南側,穂高岳山荘へ下る道は,北側とは打って変わって緩やかな下りです。
山荘でテント泊の受付をしたんですが,何と3000 mの山小屋でクレジットカード決済ができるようになっていてビックリ!
快適そうな山小屋,いつか泊まってみたいです。
↑ 公式サイトを開くと出てくる「ようこそ,信じられない世界へ」というコピーにグッときます。
テント場は小屋の近くと小屋から離れたヘリポートの方が空いていましたが,静かにゆっくり過ごしたかったのでヘリポート側に幕営しました。トイレがちょっと遠いのが難点だけどね。
穂高岳山荘の立つ「白出のコル」は風の通り道。夜通しテントを風がたたき,時折雨も降りました。
2日目記録
2023年8月23日
南岳小屋出発 (6:40) – 最低鞍部 (8:15) – 長谷川ピーク (8:35–8:40) – A沢のコル (9:05–9:15) – 飛騨泣き (9:55) – 北穂高小屋 (11:05 – 12:05) – 北穂分岐 (12:20) – 奥壁バンド (13:25) – 最低コル (13:40) – 涸沢岳 (15:20–15:25) – 穂高岳山荘 (15:45)
休憩を除いた総行動時間 7時間45分
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