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【北アルプス・穂高縦走】大キレットに行ってきました––1日目:天狗原コースを登って南岳へ

南岳と長谷川ピーク


「憧れと試練」。登山口にこんな言葉が刻まれているのは,剱岳の早月尾根でしたっけ。

北アルプスには「憧れと試練」となるルートがいくつかあります。

自分にとってその一つ,大キレットに行って来ました。

はじめに––大キレットについて

キレットとは,痩せた稜線が山と山の間で大きく落ち込んだところを指します。切れ落ちた尾根の急降下・急登を含むので,縦走においては難所となります。

さて唐突ですが,ここでクイズです。キレットとは何語でしょう?英語?フランス語?

いいえ,日本語なんです。漢字で「切戸」と書きます。

不帰キレット 八方尾根から

不帰キレット 八方尾根から

北アルプスには「三大キレット」と呼ばれるところがあります。白馬連峰と唐松岳を結ぶ「不帰キレット」,鹿島槍ヶ岳と五竜岳をつなぐ「八峰キレット」,そして槍ヶ岳 (正確にいうとその南にある南岳) と穂高連峰を結ぶ「大キレット」です。

八峰キレット

鹿島槍ヶ岳から見た五竜岳。手前に伸びるゴツゴツした稜線が八峰キレット

大キレットはこの中でも最大級のスケールを持っており,北アルプス屈指の(すなわち日本屈指の)難コースとされています。

大キレット

南岳から見た穂高連峰 (昨年撮影)。穂高手前の大きく落ち込んでいるところが大キレット

槍ヶ岳と穂高岳。北アルプスの2大スターを結んで歩くには,どうしたってここを通過することになります。

出発まで

ルートの取り方を考えます

さて大キレットに行くにあたって,どんなルートを取りましょう?

大キレットの両端にある山は,南岳と北穂高岳です。そしてここは,北穂高岳→南岳と北上する方が,南岳→北穂高岳と南下するよりも難易度が高いとされています。

これは難所の一つ「飛騨泣き」が,北上ルートでは下りとなるためです(岩場は上りよりも下りの方が難しい)。

飛騨泣き

大キレットの難所,飛騨泣き(動画キャプチャー)

大キレットに行くのは初めてなので,ここは南下ルートを取ることにします。

またできるだけ元気で集中力が高いうちに大キレットを通過したいですね。そこで朝イチで南岳を立てるようにします。

…ということで,1日目夜は南岳小屋にテント泊で決定です。

南岳のテント場

南岳のテント場(昨年撮影)

問題はどうやって南岳に行くかですね。

今回は上高地から槍ヶ岳へ向かう「槍沢コース」に入り,その途中で分岐して南岳に通じる「天狗原コース」を辿ることにします。

南岳に登るコースとしては,岐阜県側の新穂高から南岳に至る「南岳新道」もあります。ここには去年行ったのですが,けっこうしんどかったのでね…(去年南岳新道を登ったのは,大キレットに向けた偵察のつもりもあったんです)。

南岳新道

南岳新道はけっこうしんどかったな…(昨年撮影)

上高地から天狗原コースを通って南岳へ至る道は,標準コースタイム10時間40分の長丁場です。1日目はタイムを巻き気味に行く必要がありますね。

2日目は大キレットを通過したら,北穂〜涸沢岳間の稜線を辿って穂高岳山荘でテント泊。最終3日目は奥穂高岳,前穂高岳をこえて上高地へ下山します。

今回辿ったルート

今回辿ったルート:南岳から前穂高岳まで縦走します

3000 m 峰5座(南岳,北穂高岳,涸沢岳,奥穂高岳,前穂高岳)を登る,贅沢なルートです。

装備は12.3 kg

難所を通過するので,テント泊とはいえ,装備はできるだけ軽くしたいところ。

登山装備の軽量化は昨年から続けているんですが,今回は12.3 kg(水,カメラを含む)。うーん悪くはないけど,できればもう少し軽くしたかったな。

装備は12.3 kg

装備は12.3 kg

アクションカムが増えたぶん,ちょっと重くなりましたかね。

朝もやの上高地を歩く

前置きが長くなりましたが,やっと山行記録に入ります。

8月21日,新宿発の上高地行き夜行バス「さわやか信州号」に乗り込みました。今回は3列シートで,大きくリクライニングできる席。よく眠れました。

アルピコ交通「さわやか信州号」

アルピコ交通「さわやか信州号」快適でした

上高地には,予定通り5時20分に到着です。

バスターミナルから少し歩くと河童橋。何度も見てきた風景ですが,やっぱり絵になります。

朝もやの河童橋

朝もやの河童橋

朝もやに包まれた上高地。雰囲気は最高です。もうこの景色を見ただけで満足。山には登らなくていいや…なーんてね。

梓川に沿った道を歩きます。朝もやがオレンジ色に染まって幻想的。もやの切れ目に,穂高連峰が見えていますね。

梓川と穂高連峰

梓川と穂高連峰

朝早いので,空気はひんやりしています。そんな中を横尾に向かいます。

この辺りは平らな道。まだ気分はのんびりしたものですが,コースタイムを巻きたいので少しだけ早足で歩きますかね。

朝の上高地を歩く

朝の上高地を歩く

明神までくると,明神岳が大きくなります。穂高神社奥宮の御神体ですね。先を急ぐので,今回は明神岳に手を合わせて足速に通過です。

明神にて

明神岳

さらに進んで徳沢まできました。左手に前穂高岳が見えてきます。

穂高がだんだん近くに感じられるようになってくるのはいいですね。山行はまだ序盤ですが,気分が盛り上がって来ました (^◡^)。

前穂高岳が見えてきた@徳沢

前穂高岳が見えてきた@徳沢

ズームして頂上あたりをアップにしてみましょう。

前穂の頂上がすごくゴツゴツしています。日本離れした風景!あそこに立つのは2日後の予定です。

前穂高岳頂上部

前穂高岳頂上部

上高地を歩き始めてから2時間半,横尾に到着です。ここは北アルプス南部の登山前進基地といったところです。

横尾に到着

横尾に到着

ここで道は3つに分かれます。左に折れて横尾大橋を渡れば涸沢カールを経由して穂高方面,直進すれば槍ヶ岳方面,右に折れれば蝶ヶ岳・常念岳方面です。

今回はここを直進して,槍ヶ岳へ向かう道に入ります。

槍沢ロッヂへ

梓川は横尾から上で「槍沢」と名前を変えます。その槍沢に沿って,登山道は続きます。

幅が狭くなってようやく登山道らしくなって来ました。途中,一ノ股,二ノ股にかかる橋で小沢を渡ります。

引き続き平坦な道を進んでいくと…おっ,木々の間に見えてきたのは南岳ですね!まだ遥か遠いな。そして…左側のスカイラインが大きく落ち込んでいます。あれが大キレットの入り口ですね。

南岳が見える

南岳が見える

9時55分に槍沢ロッジに到着。ここまでいいペースで来れています。ちょっくら休憩にしましょうかね。お昼ごはんとしておにぎりを2個食べます。

槍沢ロッヂ

槍沢ロッヂ

天気のいい日,槍沢ロッジ前には小さな望遠鏡が置かれます。ぶら下がった札には「槍が見えるよ」。

その方向にカメラを向けると,うんうん,樹林越しに見えていますね,槍ヶ岳。

樹林越しに槍ヶ岳

樹林越しに槍ヶ岳

槍の穂先が見えてくると,俄然やる気が出てくるというものです。もっとも今回は途中でコースをそれて,南岳の方に行きますが。

槍沢カールを登る

槍沢ロッジを立つと,傾斜が少し急になります。30分くらい登ると,テント指定地のババ平。

ここで槍沢のカール地形が目に飛び込んできます。カールの底から見る稜線は,まだ遠く…。

ババ平通過

ババ平通過

さらに登っていくと大きな木がなくなり,見晴らしが効くようになります。目の前に広がるのは,槍沢カール。行手と左右が岩壁に囲まれた圏谷です。

ここにきて,北アルプスのスケール感が強く感じられるようになってきました。

槍沢のカール地形を登る

槍沢のカール地形を登る

カールの中を上り詰めていきます。標高も上がってきて,もうすぐ槍の穂先が見えてくるはず…っていうところで天狗原分岐

天狗原分岐

天狗原分岐まできました

今回はここで槍ヶ岳に背を向けて,コースを左に取ります。

天狗原をゆく

これから歩くのは天狗原と呼ばれるモレーン地帯。氷河が作り出した光景です。

まずは,岩がゴロゴロしている中を横切って,槍沢カールの南側を囲む「横尾尾根」に向かいます。

天狗原をゆく

天狗原をゆく

登山道脇のチングルマは,もう綿毛になっています。高山植物の季節も,もう終わりに近づいているんですね。

高山植物はもう終わりかな?

チングルマの花穂

氷河地形の中を歩いてゆくと,1時間ほどで「天狗池」に着きます。小さな池ですが,ここは水面に槍ヶ岳を映す「逆さ槍」が見られることで知られています。

天狗池に映る槍ヶ岳

天狗池に映る槍ヶ岳

青空だったら,逆さ槍ももっときれいだったんでしょうけど。ちょっと雲が広がってきちゃいました。

縦構図でも撮っておこう。

逆さ槍・天狗池にて

逆さ槍・天狗池にて

天狗原コースは歩く人が少ないようで,天狗池の周りはとても静かでした。こんな風景を独り占めしながら休憩するのは,とても贅沢な時間ですね。

天狗池を後にして歩き始めると傾斜が急になって,横尾尾根への取りつきになります。

横尾尾根に登ってゆく

横尾尾根に登ってゆく

ここからキツい登りが続きますが,振り返ると幾重にも重なった尾根の向こうに槍ヶ岳が見事です。

振り返れば槍ヶ岳

振り返れば槍ヶ岳

こちら大天井岳方面。この山を見るたびに,表銀座縦走路にはいつ行こうかな?って考えちゃいます。

大天井岳方面

大天井岳方面

かなり標高が上がってきました。どれくらいの標高で息がハァハァ上がってくるかは,その日の調子によって違います。

今回はあまり調子が良くないのか,2700 mくらいからもう息が激しくなってきました。明日の大キレット,大丈夫かな。

横尾尾根に乗りました

横尾尾根に乗りました

そんなことを考えながら登っていき,14時45分に横尾尾根に乗りました!天狗原分岐から2時くらい歩きましたかね。

槍ヶ岳から南岳へ続く稜線が頭上に見えています。ここから稜線上の縦走路を目指して登っていくことになります。

 

横尾尾根を詰めて南岳へ

横尾尾根に出ると,それまで尾根に隠されていた穂高方向の視界が開けます。

これはすごい眺め!北穂高岳,その向こうの前穂高岳。前穂から続くギザギザの稜線の左末端にもっこりしているのは屏風岩ですね。

北穂高岳,前穂高岳,屏風岩

穂高が見えた!

ズームして穂高に寄ってみます。北穂高岳がど迫力の岩壁をこちら側に向けているんですが…。ええ,ホントにあれ登るのぉ?

いや,今回はしんどいとかじゃなくて,岩壁の迫力に怖気付きまして。

北穂,前穂アップ

北穂高岳の岩壁がすごい…

振り返れば槍ヶ岳。この角度から見る槍ヶ岳は,天狗原コース特有の眺めですね。雲の影で穂先に陽の光が当たっていないのが,ちょっとだけ残念。

振り返れば槍ヶ岳

振り返れば槍ヶ岳

横尾尾根の上部はゴツゴツの岩稜です。傾斜もキツくてクサリやハシゴがかかっており,けっこう大変でした。

横尾尾根上部は岩稜帯

横尾尾根上部は岩稜帯

こういうところは単に急傾斜なだけではなくて,標高が高くて息がハァハァなる中で全身運動をするのがキツいです。

まあ,大キレット通過に向けての足ならしという感じでしょうかね。

天狗原コース上部は急傾斜の岩場

天狗原コース上部は急傾斜の岩場

ここの岩場の通過でややペースが落ちてしまいましたが,16時を過ぎたあたりで縦走路に出ました!これで1日目の核心部は終わりです。

北の方を見ると,槍ヶ岳へ続く稜線が一望の元です。

縦走路にでた!

縦走路にでた!

この稜線を槍ヶ岳に向かって歩いたのは,昨年の秋のことでした。

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また左を向けば南岳,その向こうに穂高連峰。うーん,縦走路に出たら南岳はすぐかと思ってたけど,けっこうあるじゃないですか。

南岳,その向こうに前穂高岳

南岳,その向こうに前穂高岳,北穂高岳

とはいえここからは稜線上の縦走路を辿るのみ。緩やかに登って南岳に到着です。

1日目は南岳小屋でテント泊します

ここ南岳は,穂高連峰の絶好の展望台です。

中央やや左が北穂高岳,その右のひときわ高いところが奥穂高岳,左側にギザギザした稜線を見せているのが前穂高岳。

北穂には明日,奥穂と前穂には明後日登る予定です。

南岳から穂高連峰

南岳から穂高連峰

頂上から南岳小屋まではすぐです。

小屋でテント泊の受付をしていたら,あれよあれよという間にガスが広がってきました。

この夜は濃い霧の中。テントがぐっしょり濡れてしまい,なかなか大変な夜でした。

でも明日の大キレット通過に向けてよく休みたいと思います。おやすみなさい。

1日目記録

2023年8月22日

上高地出発 (5:50) – 河童橋 (5:55–6:00) – 明神 (6:45) – 徳沢 (7:30) –横尾 (8:15–8:35) – 一の股 (9:20) – 槍沢ロッヂ (9:55–10:20) – ババ平 (10:50) – 大曲 (11:20 ) – 天狗原分岐 (12:25–12:40) – 天狗池 (13:30–13:45) – 横尾尾根 (14:45) – 県境縦走路 (16:15) – 南岳(16:40–16:45) – 南岳小屋 (16:50)

休憩を除いた総行動時間 9時間35分

 

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