8月4日朝。酒田から鳥海山の登山口へ向かう途中で,少し寄り道をしていきました。遊佐町・吹浦の海辺にある,十六羅漢像です。
鳥海山登山のお話とあわせてお読みください。
鳥海山登山口へ向かう途中で…
8月4日朝,鳥海山に登るために酒田から車を走らせました。国道7号線を北に進み,車が遊佐町に入ると「十六羅漢」と書かれた看板が何度か出てきます。
「十六羅漢て何?」と息子18歳。
「鳥海山の溶岩が海に流れて固まってできた岩に,昔のお坊さんが仏さまを彫ったところがあるんだよ」とぼく。
息子「え?何それ。行ってみたい!」
ぼく「寄っていくかい?」
息子「寄っていける?」
ぼく「おう,行けるよ」
実は,ぼくは以前から十六羅漢岩が大好きで(すでに2回来ているんです),息子にぜひ見せたいと思っていたんです(前日酒田に早く着いたら夕方に寄ろうと思ってました)。
だから「これ幸い」と十六羅漢に向かったわけです。
とは言っても十六羅漢は鳥海ブルーラインの入り口にあり,ほとんど回り道にはならないんですけどね。
吹浦の海辺
吹浦(「ふくら」と読みます)は,山形の北の端にある遊佐町の,さらに一番北にある集落です。吹浦川の河口の周りにある,半農半漁のこぢんまりした町。
国道に沿ってしばらく歩けば秋田県との県境に達し,そこには「有耶無耶の関」と「三崎公園灯台」があります。
またその途中には女鹿(めが)という小集落があって,お正月にはナマハゲならぬ「アマハゲ」という来訪神行事が行われることでも知られています。
吹浦の町から弧を描く海辺の道に沿っていくと,道は吹浦川を渡り,十六羅漢岩につきます。
ここは先も書いたように,鳥海山が噴火した際の溶岩流が海に流れて固まり,そうしてできた岩に江戸時代の僧が羅漢像を彫ったもの。
これを作ったのは吹浦海禅寺の21代和尚寛海で,日本海の荒波で命を落とした漁師の供養と海上安全を願って造佛を発願したそうです。彼は1864年(元治元年)に吹浦から酒田まで托鉢を行ない,5年の年月をかけて22体の磨崖仏を完成させたとのこと*1。
海から吹く風と,目の前に立ち上がる鳥海山。吹浦の海辺で,日本海の荒波に洗われる十六羅漢像。ここは一見の価値があるところです。
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*1 「十六羅漢なのに22体?」と思うでしょ?ここには羅漢像に加えて釈迦牟尼,文殊菩薩,普賢菩薩などの像も彫られているんです。
十六羅漢岩へ
十六羅漢は鳥海ブルーラインの山形側の入り口のすぐそばにあります。車で行く場合はブルーラインに入ってすぐに右へ入る小道があり,「サンセット十六羅漢」というレストハウスの駐車場が利用できます。
駐車場には,芭蕉「おくのほそ道」の句碑があります。
あつみ山や 吹浦かけて 夕涼み
駐車場からは,国道7号線を跨ぐ橋を通って羅漢岩に行くことができて楽ちんです。
公共交通で行く場合でも,吹浦駅から海辺の道を15分ほど歩くと着くので,行きやすいですね。
現地に着くと,こんな光景。
海に面した岩に,羅漢像がおわします。
日本海の波に洗われる羅漢たち
羅漢像っていろんなところにありますが,青い海を背景に立つ吹浦十六羅漢は独特の雰囲気を持っています。
羅漢たちは,波の音を聴きながら静かに祈っているみたい。
この岩は鳥海山から流れてきた溶岩ということで,ここの羅漢たちは空と海とをつないて瞑想しているようにも思えてきます。
潮騒が聞こえると,羅漢たちの祈りがいっそう静かなものに見えてくるから不思議ですね。
バラエティーに富んだ羅漢像の表情
羅漢像たちをよく観察すると,いろいろと見えてくることがあります。
これ↓はどういうことでしょう。一体の羅漢の横に,怪物が顔を覗かせているようです。
「邪悪なるものから平安を守るために祈っている」っていうことなのかな?でもこの羅漢はちょっと困った顔をしているようにも見えますね。
小さな砂浜をはさんだ反対側には東家があって,ひと休みできるようになっています。そっちの方にも石仏がありますね。
拡大してみると…
これは羅漢ではなくて,「22体」のうちの菩薩像のひとつなのかな?座している岩が,蓮の花のように見えなくもないですね。
そして頭の上に鳥っこが止まっているのが可愛い (^◡^)。
羅漢たちは潮風に笑う
日本海の波と風に現れながら,この場所に居続ける羅漢たち。
塩分を含んだ風が常に吹き付けるからか,羅漢岩は風化が進んでいるようです。
でもそれはここにいることの定め。羅漢たちの表情は穏やかです。
空を見上げている羅漢像もあります。
波の音を聴きながら,これからもずっとここにいるのか。潮風に崩れていきながらも,どこか笑っているように見えるのです。
日本海の荒波
日本海の荒波はどんぶらこ。真夏だけど冷たそうな色ですね。
十六羅漢の看板を見て「行ってみたい!」と言った息子も,羅漢像を巡りながらいろいろと感じ取るものがあるようです。
うちに帰ってから「十六羅漢はどうだった?」と聞いたら「おもろかった!」との答えでした (^◡^)。よかったよかった。
おわりに
吹浦十六羅漢の紹介でした。ここはとても雰囲気のあるところ。
羅漢とは,グーグル先生によると「最高位の修行に達した聖者」とあります。
だからここは「聖なるところ」なんでしょうが…ここにある信仰は生活に根ざしたもので,この土地に暮らす人たちの心にとても近いところにあるように感じられ,やっぱり「生の山」「俗の山」たる鳥海山の一部であることを思うのです。
この海岸は夕日も見事だそうです。
鳥海山方面に行かれる機会があったら,ぜひ訪ねてみることをお勧めします。
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