星の撮影について,今までいくつか記事を書いてきました。この記事では,星の日周運動(スタートレイル)を写す方法 について書いてみます。こんな写真↓です。「星ぐるぐる」ってやつですね (^ ^)
- 比較明合成を使います
- 比較明合成の実際
- 北天にカメラを向けよう!
- 南天の低いところを写すと
- スタートレイルの写真なら,都内の自宅からでもけっこう撮れる
- 撮影間隔を長くとってインターバル撮影をすると
- おわりに
比較明合成を使います
星ぐるぐるの写真を撮るには,2通りの方法があります。
1つは「長時間露光の一発撮り」。カメラを三脚に固定し,シャッターを数分〜数十分に渡って開けっ放しにしておくやり方です。シャッターが開いている間に星が動き,その軌跡が線となって写るというわけです。この際,シャッターを長く開けておくほど,星の軌跡を長く伸ばすことができます。
ただ,あまり長い時間シャッターを開けておくと空自体が明るく飛んでしまうため,iso感度を下げておく必要があります。したがってこの方法だと暗い星まで写すのは難しくなりますし,都市部など空の明るいところでは使えません。また撮影中に車のライトが画面に入ったりすると,その時点で失敗となるリスクがあります。
もう一つの方法は「比較明合成」です。カメラを固定しておくのは一発撮りと同じですが,露光20秒〜30秒のカットを連続して数十枚〜数百枚撮影します。こうして撮った写真を,Photoshopなどの画像処理ソフトで重ねて開き,明るいところを表示するブレンドモードを適用します(Photoshopでは「比較(明)」)。すると,こんな風になります↓
この際,重ねた写真が連続的に撮った星空の写真だと,動いていく星の軌跡が得られるというわけです。
比較明合成を使ったやり方だと,撮影の際に絞りを開いたり iso感度を上げたりできるので,暗い星まで写すことができます。また多数の写真をスタックすることで,夜空の部分のノイズが平均化されて目立たなくなるという効果もあります。
なお僕は画像処理にPhotoshopを使っていますが,比較明合成に特化した「StarStax」や「SiriusComp」などのフリーソフトもあり,便利に使えるようです。
比較明合成の実際
まずカメラを三脚に固定します。撮影モードは「マニュアル」。ピント合わせも「マニュアルフォーカス」です。次に星にピントを合わせますが,やり方はこちらの記事を参照していただければと思います。
ピント合わせが終わったら,カメラにインターバル撮影のできるリモートレリーズ(インターバルタイマー)を接続します。インターバルタイマーは,例えばこれ↓
シャッタースピードはB(バルブ)とし,インターバルタイマーで露出時間とインターバル時間を設定します。露出時間は空の暗さによりますが,20秒〜30秒くらいがいいと思います。インターバル時間は1秒です。こうしてタイマーのSTARTボタンを押すと,STOPを押すまでの間,連続してシャッターが切られ続けます。
インターバルタイマーが接続できないタイプのカメラでも連続撮影はできます。その場合はカメラのドライブモードを「連写」にして,露光時間を30秒とかに設定します。そしてカメラのシャッターを輪ゴムなどを使って押しっぱなしにしておきます。無理やりな感じですが,僕は以前のNEX3では,実際にこんなやり方で撮っていました (^ ^;)
撮影が終わってうちに帰ったら,全てのファイルをPhotoshopで開きます(ファイルメニューから「スクリプト」→「ファイルをレイヤーとして読み込み」)。
Photoshopの場合,ファイルを開いた状態ではブレンドモードが「通常」になっています。この時,重なっている中で一番上の写真が表示されていると思います。
ここで全てのレイヤーを選択し,ブレンドモードを「比較(明)」にすると…
星の軌跡が現れます!
この段階でレイヤーを統合したら,あとはいつものように明るさや色調を調整すれば出来上がりです。
北天にカメラを向けよう!
日周運動を撮影する際に,まず写してみたいのは北の空です。それは北極星を中心に星がぐるぐる回る様子を写すことができるからです。
例えばこんな感じ。
千葉・外房で撮った桜と北天のスタートレイル,北斗七星が山の端に沈んでゆきます。この時の撮影条件は,「18 mm (換算27 mm),iso 4000,絞りF4,露光時間30秒で約30分の連続撮影」です。途中で何度か近くを車が通って,桜を照らしてくれました。
ぐるぐるの中心でほとんど動いていない星が北極星です。見つけられるでしょうか。
カメラの感度を上げて暗い星までギャンギャンに写したのが,最初にも上げたこの写真↓です。
これは南アルプスの北沢峠で撮ったもので,空が暗い場所だったので iso感度を5000まで上げて,絞りF2.8,1枚あたりの露出30秒で撮っています。総露光時間は約1時間。迫力は出たけど,ちょっとやりすぎたかな (^ ^;)
ところでこれらの写真で,星は時計回りに動いているか,反時計回りに動いているかわかりますか?
…答えは「反時計回り」ですよ。
南天の低いところを写すと
南の空の比較的低いところを写すと,こんな画像が得られます。今度は星は左から右へ動いているんですよ? (^ ^)
この写真は奥秩父・笠取山の頂上から撮ったもので,露出は15分くらいです。富士山の左側に写っている明るい星は,りゅうこつ座のカノープス。シリウス(写真の中央上部に写っています)に次いで,全天で2番目に明るい星なのですが,南天低いところにあるのでなかなか見ることができません(福島県あたりより北では,この星は地平線よりも下に来るため見ることができません)。このため,この星は「南極老人星」という別名を持ち,これを見ると寿命が延びるという話もあるようです。この写真を見たあなた,10年くらい寿命が延びましたよ! (^ ^)
スタートレイルの写真なら,都内の自宅からでもけっこう撮れる
一般に星空の写真をきれいに写そうと思うと,空の暗いところへ行くことが必要です。暗い星や淡い天の川を写すためには,長い露光時間を取る必要があるからです。でも東京都内みたいに空が明るいところだと,長時間露光をすると空が真っ白に写ってしまい,星が消えてしまいます。
都内で星の写真を撮ろうとすると,iso感度を下げてレンズを絞って,露光時間も短めに…ってしなければなりません。もちろんこれでは暗い星はあまり写らず,星空の写真としてはかなり寂しい感じになります。
でも都内でも,星ぐるぐる写真なら日周運動する星の軌跡が重なり合うので,星の存在感が出てそれなりに「見れる」写真が撮れたりします。
都内にある自宅のベランダから,1時間のスタートレイルを撮ってみたのがこの写真↓です。
これは,ふたご座流星群の活動期に撮った冬の大三角〜オリオン座です。写真の下の方に,流れ星も1個だけ写っています。
撮影条件は,iso 400,絞り F5.6,露光時間15秒で,約250枚撮ったものを比較明合成しました。そんなに暗い星は写っていないのですが,けっこう見栄えがすると思います。
自宅だと,カメラ+三脚をベランダに出しっぱなしにして撮影しながら,自分は暖かい部屋でビールでも飲みながら待ってられるので楽チンです。
撮影間隔を長くとってインターバル撮影をすると
というわけで,シャッター間隔がごく短いインターバル撮影(連写)をして比較明合成すると星の日周運動が線になって写るわけですが,あえてシャッター間隔を長くして比較明合成すると,日周運動する天体がポツン,ポツンと「点線」になります。
そうやって撮影したのがこれ↓。西空に沈む月と金星です。これは4分間隔でシャッターを切って比較明合成したものです。
この写真では三日月の暗い部分がぼんやり明るく見えていますが,これは「地球照」といって,地球から跳ね返った太陽の光が,太陽光が当たっていない部分を照らすことにより,少しだけ明るくなる現象です。
おわりに
スタートレイルの撮影は時間がかかりますが,撮影の間はカメラを放置しておけるので,わりと楽です。枚数が多いと比較明合成の作業が大変ですが。
星を止めて写す固定撮影やガイド撮影は,南天に魅力的な対象がある場合が多いように思います。というのは,天の川の明るい部分や目立つ星座が南側に見える場合が多いからです(例えばさそり座やオリオン座など)。北天はその点地味ですが,逆にぐるぐる撮影の場合は絵になリます。
星を点として写すだけでなく,その軌跡(日周運動)を写すことにはまた別の面白さがあります。露光時間が短めの固定撮影,赤道儀を使ったガイド撮影,比較明合成を用いた星ぐるぐる撮影。これらを使い分けて,星空の写真を楽しみたいものです。
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