
今月中旬に岩手の義実家に帰省しました。その際に,花巻の「宮沢賢治記念館」を訪ねてきました。
お目当ては,賢治自身の作曲による「星めぐりの歌」についての資料を見ることです。
そのきっかけはですね,僕の所属する音楽グループ「ずぼらーず」で,今度「星めぐりの歌」を歌おうかという話が持ち上がってまして。
それで花巻まで足を伸ばしたというわけです。賢治記念館には,義実家から車で30分くらいで行けますし。
ここには何度か来たことがあるんですが,時間も限られているので,今回は「星めぐりの歌」に関係するところを中心に見ることにします。
花巻・宮沢賢治記念館へ
宮沢賢治記念館は花巻市の郊外にあります。近くには賢治童話村やイーハトーブ館もあって,見どころたくさんです。特に童話村は,小さい子供といっしょに行くと,とても楽しめると思います。
記念館に着くと,二匹の猫がお出迎え。「はひれつ」「おはようございます,はひりたまへ」。

そして入り口をくぐると,今度は賢治ご本人がお出迎え。「イーハトーブへようこそ」。
正しく強く生きるとは,銀河系を自らの中に意識してこれに応じて行くことである

賢治の作品で宇宙が繰り返し語られるのは,こんな思想が根底にあるからなんですね。
館内には賢治直筆の童話の原稿や,こんな挿絵。一気に賢治ワールドに引き込まれていきます。

星めぐりの歌を見てきました
見どころたくさんの展示室で,星めぐりの歌関連の資料は「賢治と宇宙」というコーナーにあります。

自筆の原稿が展示されています。
赤い目玉のさそり 広げたわしの翼
青い目玉のこいぬ ひかりのへびのとぐろ
オリオンは高くうたひ つゆと霜とを落とすアンドロメダの雲は さかなの口の形
おおぐまの脚を北に 五つ伸ばしたところ
こぐまのひたいのうへは 星のめぐりのめあて
ああ,もう美しいなあ!
幻想的で壮大で,それでいて素朴でやさしくて。

なんて素敵な歌なんだろう。
そして詩だけじゃなくて,賢治は曲まで書いたなんて。感嘆のため息が出てしまいそう。

ところで,解説に「アンドロメダの雲とはアンドロメダ大銀河と思われますが,実際は”さかなのくちのかたち” ではありません」書かれていますが,さかなの口に見えないこともないですね…。
むしろ賢治の想像力に思いを馳せた方がよさそうな気がします。

楽譜も展示されていました。この楽譜自体は賢治が書いたものではないだろうけど。
このうたが「空のあちこち」で奏でられるのか…。

「星めぐりの歌」は,童話「双子の星」の中に登場します。チュンセとホウセ,ふたりの童子。
ふたご座のカストルとポルックスがモデルなんだろうな,やっぱり。

流星群のときは,チュンセとボウセが星を降らせているんだろうなあ。

チュンセとホウセ二人の童子がたずねた「空の泉」は,「天の川の西の岸からよほど離れた処に。青い小さな星で円くかこまれてあります」とあります。天の川との位置関係や星の配列から,かんむり座をモデルとしたと思われます。
そうかー。かんむり座の星の並びを「空の泉」と見立てるのかー。なんて優しい発想なんだろうなあ。
かんむり座を撮った写真は…あったあった。でもずーっと前だから全然下手だなあ。

今度あらためて撮ってみよう(そして写真を差し替えよう)。赤道儀とソフトフィルターを使ってね。
「星めぐりの歌」は,いま楽器とコーラスのために編曲しているところです。楽器はカリンバで。
スウェーデン語の歌詞もつけたいところだけど…。スウェーデン語で「星」は "stjärna"。"stj" の発音が難しいんだよね(汗)。
星めぐりの歌
銀河鉄道の夜
賢治と宇宙といえば,やはり「銀河鉄道の夜」ですよね。
代表作とあって,この童話に関する資料は「賢治と宇宙コーナー」に 大きくスペースが取られていました。

これは貴重な原稿の実物です。何だかかわいらしい文字ですね。
近くには銀河鉄道のモデルとなったとも言われている,旧岩手軽便鉄道の写真も展示されています。現在は,この路線はJR釜石線となっています。

鷲の停車場
ジョバンニとカムパネルラが乗った列車は,北十字から鷲の停車場へ差し掛かります。
北十字ははくちょう座。天の川を南下して,南十字星へ向かっているんですね。
もうぢき鷲の停車場だよ

わし座のアルタイルの両脇には,ほぼ同距離で並ぶ星(β星とγ星)があり,アルタイルを含めた3星が三角標のモデルになったと思われます
アルタイルと,両脇に並ぶ星が作る三角標。僕もわし座を見つける時には,この3星を目印にしています。

さそりの火
物語も後半,「さそりの火」の場面ね。
いたちに追われて井戸に落ちたさそりが言います。
あゝ、わたしはいままでいくつのものの命をとったかわからない。そしてその私がこんどいたちにとられやうとしたときはあんなに一生けん命にげた。それでもたうたうこんなになってしまった。あゝなんにもあてにならない。どうしてわたしはわたしのからだをだまっていたちに呉れてやらなかったらう。そしたらいたちも一日生きのびたらうに。どうか神さま。私の心をごらん下さい。こんなにむなしく命をすてずどうかこの次にはまことのみんなの幸のために私のからだをおつかひ下さい。って云ったといふの。そしたらいつか蝎はじぶんのからだがまっ赤なうつくしい火になって燃えてよるのやみを照らしてゐるのを見たって
ずいぶん前だけど,盛岡のプラネタリウムで「銀河鉄道の夜」(KAGAYAさんの作品) を,息子といっしょに見たんです。息子がまだ小学校低学年だった頃だったっけ。
そのあとだったなあ。まだ幼い息子といっしょに星を見ていたら,息子が聞いてきたんです。
「ベテルギウスの他に,爆発しそうな星ってある?」
僕は答えました。
「爆発するかどうかわからないけど,さそり座の心臓のところにあるアンタレスも,赤くて古い星だよ」
すると息子はこう言ったんです。
「さそりはみんなの幸せのために天に召されたのに,心臓が爆発しちゃったらかわいそうだね」
それを聞いて,僕は息子を抱きしめちゃいましたよ。

ケンタウルスの夜
物語の中では序盤ですが,さそり座よりもさらに南,ケンタウルス座が登場する場面があります。

ケンタウルス、露をふらせ。
星が露を降らせ,霜を落とす。「星めぐりの歌」と共通するモチーフが描かれていますね。
南半球に行かないと見られないケンタウルス座。エキゾチックな気分になります。賢治はケンタウルスを見たことがあったのでしょうか。
賢治と化学
賢治は宇宙だけでなく,自然科学全般に深い関心を寄せます。中でも片山正夫著「化学本論」は,賢治の座右の書だったとのことです。

展示資料を見ると,熱力学の解説ですね。
化学徒の僕。賢治と化学について語ってみたいものです。
銀河鉄道の「さそりの火」のところで,アンタレスの輝きが「ルビーよりも赤くすきとおりリチウムよりもうつくしく酔ったようになってその火は燃えている」と表現されています。なぜここでリチウムが出てくるのか。これは化学者ならニヤリとするところですよね。

賢治は音楽や絵も残しました
自然科学に明るく,数々の童話や詩を残し,また作曲もした賢治。「星めぐりの歌」だけでなく,「セロ弾きのゴーシュ」にも,彼の音楽への関心が見てとれます。

彼はまた何枚かの絵も残しています。
賢治が残した毛筆画。このフクロウはサラッと描いたようでいて,表情があります。とても味わい深いですね。すごく好き。

これは「月夜の電信柱」をイメージした絵ですね。「原画は戦災により焼失。残されたモノクロ写真に弟の清六が着色したもの」とありますね。

宮沢賢治が亡くなったのは昭和8年だから,弟さんは(戦災後なので)長く生きられたんですね。
不思議なお話ですが,「月夜の電信柱」は好きなんです。幻想的な感じがして。
ドッテテドッテテ、ドッテテド、
でんしんばしらのぐんたいは
はやさせかいにたぐいなしドッテテドッテテ、ドッテテド、
でんしんばしらのぐんたいは
きりつせかいにならびなし
そういえば,このお話では僕も描いたことがあるんだった。題して「月夜の踊る電信柱」。

電信柱にバレエを踊らせてみました(笑)。
永訣の朝
賢治の詩集「春と修羅」に「永訣の朝」という一編があります。妹のトシを見送る,ひどく悲しい詩です。

(あめゆじゅとてちてけんじゃ)
学生の頃,山を歩くときには文庫版の宮沢賢治詩集を持ち歩いて,その余白にコースタイムをメモしたり,感じたことを書き付けたりしていました。
そして夜には,テントの中で賢治の詩を読んでいました。中でも「永訣の朝」は繰り返し読んだっけ。
(あめゆじゅとてちてけんじゃ)
最近は荷物を軽くする目的もあって,スマホにメモを打ち込んでるけど,ちょっと味気ない…。

「春と修羅」には,「無声慟哭」「風林」「青森挽歌」「オホーツク挽歌」など,数百行に及ぶ挽歌群が残されています。
熱心な仏教徒であった賢治。「オホーツク挽歌」に見られる「ナモサダルマプフンダリカサスートラ」は「南無妙法蓮華経」の梵音表記なんだとか。
山猫軒にて
記念館をあとにする前に,お土産屋さんを覗いてみましょう。ここはレストランが併設されているのでね,名前はもちろん「注文の多い料理店・山猫軒」です。

どなたもどうかお入りください
けっして遠慮はありません
きっと注文が多いぞー (^ ^)

こっちの猫は可愛らしい感じだな。ちょっと弱そうだけど。

え?入るときにちゃんと顔にクリームを塗ったかって?もちろんです。耳にも忘れずにね。
そして「双子の星」の絵本と,「注文の多い料理店」のTシャツを買いましたよ。

山猫軒といえば,むかし妻が描いた絵があるんです。「注文の多い料理店のスケッチ」。義実家に今も貼ってあるんですけどね。身内ながら,僕はこの絵が大好き。

ところで「注文の多い料理店」のラスト,猟犬が現れて山猫の料理店が消えたあと。あたりの森がこんなふうに描写されます。
風がどうと吹いてきて、草はざわざわ、木の葉はかさかさ、木はごとんごとんと鳴りました。
宮沢賢治のオノマトペは本当に多彩です。そして岩手の森では,今も風がどうと吹き,木がごとんごとんと鳴っています。本当です。
おわりに
雨ニモ負ケズ 風ニモ負ケズ…
ン十年生きてきたのに,発想の豊かさでも人としての高潔さでも,宮沢賢治の域には全然到達できていないなあと常々思います。

せっかく岩手と地縁ができたので(それも花巻とごく近いところに),賢治の世界に少しでも近づけるようにいろいろ訪ねてみようとあらためて思いました。
賢治の童話では「よだかの星」や「貝の火」なども味わい深いですが,とてもここでは語り尽くせないのでまた今度。
宮沢賢治の全集を買おうかな,と思う今日この頃です。
続きはこちら
こちらも見てね



