谷川岳について
国境の長いトンネルを抜けると,そこは雪国であった
川端康成の「雪国」の冒頭です。この「国境の長いトンネル」の上にある山こそが谷川岳。「国境」とは越後と上州の県境です。この山を境にして日本海側と太平洋側の気候がくっきりと分かれます。
谷川岳には日本海側から冬の季節風がもろに吹き付けるために,大量の雪が降ります。この大量の雪は山肌を削り,谷川岳は標高2000 mに満たないにも関わらず,谷筋は壮絶な岩壁になっています。もちろん4月頭のこの時期でも残雪がたっぷり。
そんな谷川岳に登ってきました。コースは天神尾根往復です。
持っていくもの
この時期谷川岳には,たっぷり雪があります。そして一たび荒れれば冬山に逆戻りという時期でもあります。そこで普段の日帰り装備に加えて,防寒着を多めに持ちます。
さらに,これに加えて
- チェーンスパイク
- 12本爪アイゼン
- ストック…これはいつも持ってるか
- ピッケル
を持つことにします。
その結果,荷物の重さは12 kgになりました。
日帰りで12 kgは重すぎだ!(^ ^;) …余計なものを減らせないかなとザックの中身を確かめたけど,熊鈴を除いたくらい。でもまあこれで行きます。
ロープウェイで天神平へ
谷川岳ベースプラザについたのは8時半くらい。はじめにここからロープウェイで天神平まで上がります。平日のことでロープウェイは空いており,スムーズに乗ることができました。
天神平に着くと,これから登る谷川岳が,目の前にどーん!トマの耳とオキの耳の双耳峰がそびえ立っています。すごい迫力。
ここでまず身支度をします。ロングスパッツをつけて,それから…。はじめは,最初チェーンスパイクで歩き始めて,傾斜がきつくなってきたら12本爪アイゼンに履き替えようかな?と思っていました。でも雪はけっこうザクザクで,長爪のアイゼンの方が良さそうです。それに途中で履きかえるのもめんどくさいなと思い,最初から12本爪アイゼンで行くことにします。
熊穴沢避難小屋まで
さて,天神平から歩き始めます。しょっぱなからなかなかの急登ですが,アイゼンがよく効き,気持ちよく登って行くことができます。
途中,「ここで落ちたら谷底まで止まらないぞ」という感じの急斜面のトラバースや,痩せた尾根の急登,ロープがかけられた岩場など注意が必要なところもありますが,足場はしっかりしているので怖さはありません。
ときおり俎嵓(まないたぐら)山稜の岩壁を望めるところもあって,快調に登って行くことができます。
それにしてもこうしてみると,雪深い越後の山にも春が来ているんだなあと感じます (^ ^)
そしてちょうど1時間歩いたところで熊穴沢避難小屋に到達。小屋はすっかり雪に埋まっています。この辺りが中間地点です。
肩の小屋へ
避難小屋を過ぎるとそろそろ森林限界。頂上へと続く雪の尾根をたどります。
ここ↓は「天狗のとまり場」だったかな?前後に人がいないのをいいことに,余裕をかまして三脚を立て,自撮りなんぞを (^ω^;)
天狗のとまり場を過ぎると広大な雪の斜面が目の前に姿を現します(トマの耳とオキの耳は見えていません)。ここから頂上まで,ひたすら登りになりますが,快晴の雪原はとても気持ちがよく,登るのが苦になりませんでした。
尾根につけられたトレースを辿りながら高度を上げていくと,どんどん展望が開けてきます。右側(北)には平ヶ岳。
そして右後ろを少し振り返ると上州武尊山,至仏山などが指呼の間に見えています(この山域から尾瀬が意外に近いことに気づきます)。
また左側には,手の届くような近さに俎嵓山稜が存在を主張しています。これはすごい迫力。
ちなみに左のとんがり(俎嵓のピーク)が「川棚の頭」,右のとんがりが「オジカ沢の頭」です。
オジカ沢の源頭部を覗き込むと,積もった雪に亀裂がたくさん入っていて,今にも全層雪崩が起きそうな様子。春の山につきものとはいえ,恐ろしい光景です。
後半は結構な急登となりましたが,雪原を登り切って「谷川岳肩の小屋」に到着。もちろんこの時期,小屋は無人で閉鎖中です。
トマの耳へ
なんだかこの日は調子が良くて,どんどん行けます。ということで肩の小屋はそのまま通過して,第一の頂上,「トマの耳」へ。12:00ちょうどに到着!天神平から休憩や写真を撮る時間を含めて2時間50分くらいでした。
人が少なかったので三脚を立てて,自撮りなんかしちゃいました。ここまでピッケルは使わず,ストックだけで来ましたが,わざとらしくピッケルを手に持ってるのはお約束 (^ ^;)
写ってるのは谷川連峰主脈稜線。群馬県と新潟県の県境です。オジカ沢の頭-大障子の頭-万太郎山-仙ノ倉山-平標山と続きます。3年前に縦走したのはここ。
続いてオキの耳方向も一枚。ここトマの耳とオキの耳を隔てるのはマチガ沢源頭部の岩壁です。
それにしてもいい天気。谷川岳はなかなか天候が安定しない山ですが,日頃の行いがいいからですな。
豪雪に削られた谷川連峰の谷は深いです。新潟県側,万太郎谷を見下ろすと,この山域の懐の深さを感じることができます。遠くに苗場山。さらにその向こうには志賀高原も見えています!
さて景色を堪能しました。風も穏やかだったので,落ち着いてお昼ご飯も食べました。続いて第二の頂上,オキの耳へ向かいます。
オキの耳へ
トマの耳を下って,稜線沿いにオキの耳へ向かいます。自撮りするときにピッケルを取り出したので,せっかくだからピッケルを使っていくことにしましょう。
トマの耳からオキの耳へ続く稜線はマチガ沢方向へ寄り過ぎるとヤバイですが,その点に気をつければ特に難しいところはありません。15分くらいで谷川岳最高点,オキの耳(1977 m)に到着!
こちらも素晴らしい展望です。谷川主脈稜線がド迫力。
振り返れば「馬蹄形稜線」でここ谷川岳と繋がっている白毛門〜朝日岳方面。いつかこっちの稜線も歩きたいですね。白毛門から谷川岳東壁を眺めてみたいです。
一方,北の方には巻機山,その向こうに越後三山(八海山,中ノ岳,越後駒ヶ岳)。こっち方面の山々も雪が深そうですね。ずいぶん前にどちらも登りましたが,越後三山はすごくしんどかった記憶があります。
本当に素晴らしい眺めでした。名残惜しいけど下山することにしましょう。
下山します
まず肩の小屋まで下ります。途中でもう一度トマの耳に寄りました。
谷川岳肩の小屋と主脈稜線。「谷川岳の風景」と言えば,まずこのアングルですかね。
肩の小屋の前には「谷川の鐘」があります。カーン♪と鳴らしたいけど(子供かっ!),グッと我慢して写真を一枚撮りました。
肩の小屋から下は傾斜がやや急なところが続くので,そのままピッケルを持って下りました。アイゼンを外してグリセードすれば速いけど,またアイゼンをつけ直すのも面倒なのでちゃんと歩きます (^ ^;)
それにしてもこういうザクザク雪の下りは楽ですね!段差が雪で埋まっているし,足をどこに置くか考えずにどんどん行けます。天気もいいし,なんだかすごく楽しい (^◡^)
下っていく途中で尾根から下を見下ろせば,立ち並ぶ木々が雪の斜面に影を作ってきれいです。
こんな光景にも「山の春」を感じますね。
熊穴沢避難小屋を過ぎたあたりで風が強いところがあり,そこで帽子が飛ばされるハプニング。飛んだ帽子が落ちたのは,尾根から数メートル外れたところです。近いのですが…尾根筋を外れたところに歩いていくと雪崩れそうな感じ。んー,取りに行けないなあ…と躊躇していたら,また風がびゅうと吹いて,帽子は谷底へ落ちていきました。ちょっと悲しいけど仕方がないですね。安全優先です。
そんなアクシデントもありましたが,途中でピッケルをストックに持ち替えたりしながら下っていき,15:30に天神平に到着。下りは休憩を含めて1時間45分くらいでした(おそらく無雪期よりも早いと思います)。
天神平のロープウェイ駅で,アイゼンを外したりしながら谷川岳を振り返ります。うーん満ち足りた気分 (^◡^) 登り始めた時とは太陽の位置が変わって,光の当たり方がずいぶん違っています。
ゆっくりと山を眺めたら,マスクをつけてからロープウェイに乗って,ベースプラザへと下りました。
おわりに
天候に恵まれて,残雪の谷川岳を楽しむことができました。
リモートが続いて体力面は大丈夫かな?と思っていたのですが,今回はなぜか好調で,どんどん歩くことができました。ウォーキングだけはやっていたので,それが少しは効いていたのかな?
装備ですが,今回の条件ではピッケルなしでも行けたと思います(ちょっと使いましたが)。でもこの時期は気温が下がって雪面が凍結することもあるし,やっぱりピッケルを持って行った方がいいかなと思います。アイゼンは10本か12本爪を持てばチェーンスパイクはいらないかな。
雪山はやっぱりきれいですね。いつか白毛門側の稜線を歩こうとか,行きたいところが増えてしまいます (^◡^)
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