秩父,多摩地域では,この地方に息づいてきた狼信仰の痕跡をたどることができます。奥多摩山域の七ツ石山頂近くにある,七ツ石神社の狼像(お犬様)もその一つです。
長い間風雨にさらされて朽ちかけていた七ツ石神社ですが,昨年丹波山村によって再建されました。傷みが激しかったお犬様も修復のために里に下りました。
「その1」では,昨年3月,雲取山〜七ツ石山を歩いて再建前の七ツ石神社にお参りした後,丹波山村郷土民俗資料館で修復途中のお犬様に会ってきたことを書きました。
後編では,その半年後の11月,再建された七ツ石神社を訪ねてきたことを書きたいと思います。
お犬様が七ツ石山に戻られました
昨年の11月7日,修復が済んだお犬様が七ツ石山に運びあげられ,再建された神社の社殿に安置されました。この日はもともと七ツ石神社の例大祭の日であり,日程もそれに合わせたということです。あいにく僕はその日に行くことができなかったのですが,その3日後に,神社に戻られたお犬様に会うために七ツ石山に登ってきました。
錦秋の奥多摩へ
紅葉シーズンの週末。奥多摩行きの電車も奥多摩駅発の登山バスも大混雑です。鴨沢登山口のトイレにも行列ができていて,歩き始めたのがかなり遅くなってしまいました。
鴨沢から七ツ石山,雲取山へ向かう登山道は基本的に杉林なのですが,ところどころカエデの木やブナの木が群生しているところもあって,紅葉に目を奪われます。
途中,ツアー団体を追い越したりしながら登っていき,七ツ石小屋に到着。コーヒー休憩です。うれしいことに,ツイッターで時々やり取りさせていただいていた小屋番さんに,初めてご挨拶することができました。感激です!(3月に来た時には小屋番さんは不在で,代わりの方がいらっしゃったのです)
奥多摩小屋テントサイトにて
小屋番さんといろいろお話をしたいところでしたが,小屋は大賑わいなのでコーヒーを飲んだら早々に出発。1時間半ほど歩いて奥多摩小屋のテントサイトに着きました。テント泊の手続きをするために小屋に行くと,奥多摩小屋閉鎖に関するアンケート調査が行われていました。この山小屋は,2019年3月いっぱいで閉鎖になることが決まっており,この件について東京都環境局が登山者から意見を集めていたのです。
僕は,奥多摩小屋は雲取山登山の基地として絶好の位置にあること、このテント場はロケーションが素晴らしいこと、七ツ石小屋と雲取山荘だけでは登山者の収容力が不足すること,そしてそれはこの山域の自然の荒廃に繋がる可能性があることなど、いっぱい書きました。
その後,実際に奥多摩小屋とそのテントサイトは閉鎖になりました。この小屋の再開を望む登山者は多いと思います。先のアンケートでも,そういう声は多かったことでしょう。今後どのような動きがあるのかわかりませんが,いつかまたここでテント泊ができる日が来ることを願っています。
注意! 奥多摩小屋跡地の周りに,決してテントを張ってはいけません。トイレもありません。
さて,この日のテント場は大にぎわいでした。紅葉の週末だからでしょうか。それとも,テント場の閉鎖が近いので「ラスト奥多摩小屋キャンプ」を楽しみにきている人もいたのでしょうか(実際,バーベキューセットを持ち込んで,豪勢に肉を焼いているグループもいました。うらやましい!)。まだ時間は早いので,僕ものんびり過ごすこととします。この秋は結構忙しかったので,テントで寝転んで,英気を養うのです。
こうやって,山で一人テントの中過ごしていると、自分の置かれた状況やこれからのことに向き合ったり、相変わらずしょうもない妄想をしたり、無心に周りの景色を見ながらお酒を飲んだり…時間が過ぎるのが意外に早いものです。
あっという間に山を夜が包み込みます。星空の写真撮影の時間ですが…。
GPV予報によると,この日は夜が更けると快晴になるという予想だったので,何度もテントから顔を出して空を見上げていたのですが,ついにガスは晴れず,星空を見ることはできませんでした。というわけで,結局担ぎ上げた赤道儀は,ただの重りになってしまいました(まあ,よくあることですが)。
再建された七ツ石神社へ
夜明けが近づいてきました。今回は雲取山に登るのはパスして,まず七ツ石神社に行こうと思います。そしてそのあと,鷹ノ巣山方面に足を伸ばすこととします。
テントを撤収して,まず石尾根を下っていくと,カラマツ林の向こうから朝日が昇ってきました。薄くガスをまとった七ツ石山がきれいです。石尾根のシンボル,ダンシングツリーも元気に踊っています。
七ツ石山頂に登り着きましたが,この日は朝霧がかかったままで,富士山や南アルプスを望むことができません。けれども朝霧はこのあと,七ツ石神社に幻想的な光景を作り出すことになります。
山頂から東へ少し歩くと,左手に御神体である「七つの大岩」が見えてきます。そして木立に囲まれて,再建された神社がありました。新しい拝殿は朝霧に包まれて,神秘的な雰囲気です。
祝,七ツ石神社再建!
参拝をしてから拝殿の中を覗くと,修復されたお犬様が気持ち良さそうに鎮座していました。原型をとどめていなかった阿形の狼像は立派に修復されていました。吽形も新しい拝殿の中で微笑んでいるようです。
こうして七ツ石山の狼信仰は次の時代へと受け継がれることになりました。本当に良かったと思います。神社再建に関わった丹波山村の関係者の方々に,お犬様のファンとして心からお礼と敬意を表したいと思います。
石尾根縦走路を鷹ノ巣山へ
さて七ツ石神社への参拝を済ませたら,縦走路を鷹ノ巣山方面に向かいます。「千本ツツジ」と名付けられた小ピークを過ぎると,だだっ広い草原に山道が続く,通称「何にもないヶ原」に飛び出します。ここで三脚を立てて,自撮りをしてみました (笑)。行く手には,何やら物語が始まりそうな雲がもくもくと。新生七ツ石神社の門出にふさわしい光景ではありませんか。
高丸山は巻いて,日陰名栗山の頂上で一休み。カヤトが広がるこのピークはいつも静かで,奥多摩の中で好きな場所の一つです。
鷹ノ巣山を経て峰谷へ下山
日陰名栗山を下ると広い鞍部があり(巳の戸の大クビレ),ここに鷹ノ巣山避難小屋が建っています。ここまで来ると,雲取山の領域から離れてきたなと感じますね。荷物を一旦デポして,鷹ノ巣山を往復してきましょう。開放感では奥多摩随一の鷹ノ巣山ですが,今日はガスで展望はあまり良くありません。ふむふむ。頂上で3分だけ休んで避難小屋へ戻ります。
鷹ノ巣山避難小屋からは,浅間尾根を辿って峰谷へ下山しました。最初は落葉した林の中を行きますが,標高を下げていくに従って紅葉した木々が現れてきます。この道は,最近歩く人が少ないのか,ずっと登山道に落ち葉が積もっていて,時々立ち止まってルートを確認する必要がありました。
尾根の末端に建つ浅間神社の鳥居をくぐると「奥」という集落に着きます。ここは標高約1000m。東京都で最も高いところにある集落ではないでしょうか。集落には十月桜が咲いていました。
奥から林を縫うショートカット道を下って峰谷のバス停に到着。混雑してるかな?と思った峰谷バス停には,僕を含めて3人しかいませんでした。
おわりに
峰谷から西東京バスに乗って奥多摩駅に向かいました。この路線はバス停の名前が秀逸です。「峰谷」-「雨降り」-「雲風呂」。雨降りは物語のようだし、雲風呂も味わい深い。峰谷もいい。車窓もきれいです。
バス路線は峰谷橋で青梅街道に合流し,奥多摩駅に着きました。
というわけで,昨年三月と十一月の2回,七ツ石神社を訪ねてお犬様に会うことができました。再建された神社がこれからも愛されながら,大切な文化財として,これからの時代へ受け継がれていくことを願ってやみません。
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