玉川麻衣さんという画家さんがいます。とても繊細なペン画を描かれる方です。
また玉川さんは奥多摩・七ツ石神社のお犬さま(狼像)に題材をとった作品を数多く描かれていて,七ツ石神社がある山梨県丹波山村の「観光大使」的な役割を果たされています。
玉川さんとはSNSで親しくさせていただいて,PCの画面越しに作品を見ては「素敵だなあ」とずっと思っていました。
僕が初めて玉川さんの絵(原画)を見たのは,一昨年3月のことです。傷んだ七ツ石神社の再建に合わせて,お犬さま(狼像…七ツ石神社の狛犬は狼なのです)が補修のために里に降りられたのですが,補修途中のお犬さまを公開した「七ツ石展」(@丹波山村歴史資料館)でのことです。会場に展示された玉川さんの「Home」という絵(狼が七ツ石山に帰ってきた場面が描かれています)を見て,涙が出そうになったのを覚えています。
七ツ石神社の再建とお犬様に関してはこちら
昨年末,玉川さんの個展「あわいの神々」が六本木で開催されました。僕は最終日にお邪魔することができました。
生と死。現世と彼岸。現実の世界と想像の世界。そして人間界と異界。そのあわいを移ろうような世界観が,とても繊細で奥行きのあるタッチで描かれていて,とても感動しました。
(以下,個展の様子をブログに書くことと,作品の写真を掲載することは,玉川さんご本人に許可をいただいています)
こんな絵を観てきました
夜の底にて 2
夜の底。ここは七ツ石山でしょうか。狼は何を思って吠えているのでしょう。
これは大作です。大きな画面に極めて繊細なタッチで狼と周りの山の光景が描き込まれています。この一枚を描くには,途方もないエネルギーが必要であろうことは想像にかたくありません。
この絵からは,狼の毛の一本一本,その手触りまで感じられるようです。そして寒風に耐える木の枝が風に揺れ,星が瞬くのが目に見えるのです。天の川は澄んでいて,夜空を横切っています。この絵の前に立つと,自分の体は一瞬にして七ツ石山の頂上へと連れていかれるのでした。
狼の声は時を超えて,遠い昔へ,または遠い未来へと響いているのでしょうか。
水神
山深いところにいる水神。この絵を眺めていると,不思議なことに絵の中で水が流れ始めるのです。そして自分の周りに静謐な山の空気が広がっていくのを感じ,水の滴る音が聞こえてくるようでした。
僕は宮城県民だった頃,仙台近郊の泉が岳に何度か登りました。泉が岳には,登山道の途中に「水神」と名付けられた場所があります。よくそこで山の雰囲気を味わいながら一休みしたものです。この絵を見ながら,その当時のことを懐かしく思い出したりしました。
人喰観音
この絵は美しいです。一も二もなく美しい。
「人喰観音」というちょっと怖いタイトルなのですが,この絵を見て最初に感じるのは「美しい!」それだけでした。
紫陽花(で合っているでしょうか?)の赤に心が奪われます。そして描かれている女性の表情は,やっぱり「観音」なのです。
いつまでも見ていたくなる,そして絵の前から離れがたくなる,妖しい誘惑を感じました。
A little old days 2
眺めていると自分の中に狼の声が響き始めます。失われた時,遠い過去を呼び覚ます声でしょうか。それとも一度無くした自分の居場所に帰ってきたという声でしょうか。
狼は神の使いとして神社を守ってきたのでしょう。その誇りの声でもあるのでしょうか。
そしてその声・その姿は,彷徨う自分自身の声と姿にも重なってくるのでした。
自画像2019
この絵柄を「自画像」として描くセンスに脱帽です。骸骨の傍にとまったカラスがペンを咥えています。玉川さんが,ご自分の命を絵に吹き込んでいることを示唆しているのでしょうか。
骸骨とカラス。この絵を初めてSNSの小さな画面で見たときは,「怖い絵なのかな?」と思っていました。でも実物を見ると,不思議に明るいんですよ。絵を描くことの素晴らしさを語りかけているような,そんな絵にも感じられました。
そして玉川さんが「私は絵を描いて生きています!」ということを何よりも雄弁に物語っている,まさに「自画像」だなあと思いました。
おわりに
僕がギャラリーにお邪魔したのは個展の最終日,それも終了間際の時間でした。お忙しい時だったにも関わらず応対していただいたことに感謝しています。
そして玉川さんとお話しできて,とても光栄でした。他にお客さんがいない時間だったのでお話しできたのはラッキーだったかな?(お声掛けするときはとてもドキドキしましたが)
個展ではここに挙げた他にも多数の絵が展示されていて,どれも素晴らしいものでした。短い時間でしたが,とても濃密な時間を過ごさせていただきました。
僕の拙い文章では,玉川さんの絵の魅力を伝えきれないことが残念です。作品の写真を載せましたが,実際の絵は写真から受ける印象よりもずっと繊細で奥行きが感じられるものです。
(玉川さん,作品の写真をブログに載せることを許していただいてありがとうございます)
…また七ツ石山に行きたくなりました。
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