登山ネタ…いやネタ登山です(笑)。
日本一高い山は,言わずと知れた富士山(標高3776 m)。では2番目に高い山は?というのは,よく取り上げられる話題ですね。そう,南アルプスの北岳 (3193 m) です。
では3番目に高い山は?…って,そういう話をしたいんじゃなくて*1。
「日本で一番低い山はどこでしょう?」
そんなお話です。
*1 日本で3番目に高い山は,北アルプスの奥穂高岳と南アルプスの間ノ岳。この2座が3190 mで同標高です。
あらためて,日本で一番低い山はどこ?
宮城県仙台市に,「日和山」というチビ山があります
一番低い山。これは「山」をどう定義するかで決まってきますよね。
一応これには基準があって,「国土地理院の地図に "山" として乗っているもの」ということが「山であることの条件」になっているようです。
その中で一番低いのは…。
それは長らく,宮城県仙台市にある「日和山」とされてきました。標高は 6.05 m。これ,知る人ぞ知る豆知識として「山と渓谷」にも乗ったことがあるようです。
また毎年7月1日には,富士山の山開きに合わせて,ここでも地元の人たちによる山開きが開催されるなど,愛される存在であったようです。
日和山 vs. 天保山
ところが平成9年に事情が一変します。標高 4.53 m を誇る (?) ,大阪の天保山が国土地理院の地図に掲載され,「日本一」の座を奪ってしまったのです。
レベルの低い争いを「天保山の戦い」なんて言ったりしますが,大阪の人たちが好きそうな話ではあります。
東日本大震災が運命を変えた…
ところが忘れもしない2011年3月11日。東日本大震災が起こり,仙台市も甚大な被害を受けます。
この地震とそれに伴う津波は,日和山にも襲いかかりました。
宮城県の海岸沿いは巨大地震によって地盤沈下に見舞われます。また海岸にあった日和山は,津波の直撃をも受けて,大きく削り取られてしまいました。
「日和山がなくなってしまった…」。地元の人たちは嘆いたことでしょう。
しかし2014年,震災後の測量調査が行われ,国土地理院によって日和山の存在が再確認されたのです。しかもその標高は 3.0 m とされ,晴れて「日本一低い山」の座を奪回したのです!
天保山に日本一の座を奪われて以来,約20年ぶりのことでした。
国土地理院のサイトで仙台市宮城野区・蒲生付近を見ると,ちゃんと「日和山」の記載があります。そして「・3」とその標高も記されています!
震災の津波で 6.05 m の日和山が 3 m に小さくなってしまったけれど,踏ん張って残りました。
だからこそ日本一の称号を再び手にすることができたんです。
がんばろう東北。がんばった日和山です。
ネタみたいな話ですが,東日本大震災がからんだ,凄絶な歴史が刻んだ出来事なんですね。
日和山に登りに行こう!
そんな日和山に登るチャンスが訪れました。水と食糧(お茶とおやつね)をリュックに忍ばせて,日和山のある仙台市宮城野区・蒲生干潟に向かいます。
仙台市中心部から車で約30分。蒲生 (がもう) に着きました。駐車場にはサーファーや釣りの人たちの車も停まっているようです。
堤防を越えて海岸に向かうと…
目指す日和山が見えました!
あれ?ここから見ると「山頂を見下ろしてる」ような…なんだか混乱してきたぞ(笑)。
さらに近づいていくと,日和山の全貌が明らかになってきます。
登山口に着きました。ここに立つと…いえ,しゃがむと,頂上を見上げることができます。
それでは一丁,気合を入れて登って行きましょう!いよいよ登山口から入山します!
登山道には注意喚起の看板がいっぱい
さて,登山で一番大切なこと。それは何よりも,無事に帰ってくることです。
ここ日和山では地元の方々が登山者の安全を願って,コースを整備すると共に,安全喚起の注意看板を設置してくれていました。
安全登山を呼びかける標識がいっぱい
登山口の脇にはこんな表示。なになに?「クマ出没注意!」
あわわわ,油断して熊鈴を持ってくるのを忘れていました!大声で歌でも歌いながら歩いた方がいいでしょうか!?
おそるおそる登山道を進みます。すると…「落石注意」!
いかんいかん,ヘルメットを持ってくるのを忘れていました!石が落ちる小さな音も聞き逃さないように,耳を澄ませながら進みます。それでももし危険を感じたら,撤退する勇気を持つ必要がありますね。
違う方向を向くと,今度はこんな看板が。「遭難注意」!
僕は遭難者捜索費用をカバーしてくれる山岳保険に加入しているのですが,ここで消息を断つようなことがあったら,この保険で賄えるでしょうか?
頂上台地にたどり着くと目に入った看板が「滑落危険」!
むむむ,これは大キレットなみに集中して歩く必要がありそうです。3点支持ができるように,クライミンググローブを持ってくるべきだったかもしれません。
自然保護も大切です
それから山では自然保護に対する意識も大切ですね。もちろん高山植物を採ったりしてはいけません。
ここでもそんな注意喚起がされています。「高山植物採取禁止」!
この山ではどんな花が咲くのかな?と辺りを見回してみると,表示がありました。「ハマナス」。
うん,これは低山植物ですね(笑)。花の季節に来れば,もっときれいなのかな。
なぜ山に登るのか
また日和山は,我々が山に登る理由を哲学的に問いかけてきます。「なぜ山に登るのか。日和山があるから」
うーん,深いですねえ!
日和山に登頂しました!
登山口から登り続けること7秒,日和山の頂上に到着しました!
頂上には山頂標が立っていました。…っていうか,さっきから見えてますね(笑)。
頂上から見えるのは,蒲生干潟と太平洋が広がる望洋たる風景。潮風に吹かれて,長かった登りで火照った身体を冷やします。
そういえば山の上から海が見えたのは,針ノ木サーキット縦走の時に,スバリ岳から富山湾を見た時以来だな。
ところで登頂記念に自撮りをしたいけど,三脚を持ってこなかったなあ…。
そう思って周りを見渡すと,山全体を囲む柵があります。その上にカメラを置いて一枚 (^◡^)。
山を駆け下ってカメラをセットし,セルフタイマー10秒の間にまた頂上まで駆け上がってポーズです(笑)。
下山します
それでは眺めも堪能したので,下山にかかりましょう。
日和山には「下山口」が別にあって,海側に下山します。つまり縦走形式の登山ができるようになっているんですね。
山道を下ること6秒。下山完了です。山を降りたところにこんなことが書かれていました。
日本一元気の出る登山。また来てね
うん,また来るよ。…ってことで,登山口に回り込んで登頂→下山を3回ほど繰り返してしまいました。これは前穂高岳に例えるなら,重太郎新道を1日に3往復するようなものかな?(違います)
下山後,海岸側から振り返ると,別のパーティーが登頂を果たしていました。人気の山なんですね!
日和山の風景
先日行った穂高ではライチョウに出会いましたが,ここ日和山にも鳥がいるでしょうか?
あっ,いましたいました。カモメです。山に登って鳥に出会えるところは,北アルプスとも共通していますね!
下山後に海岸を歩くと,流木のオブジェ。これはいつ流れてきたんでしょう。味のある流木ですね。
登頂証明書ももらえます
登山のあとは,車で10分くらいのところにある「高砂市民センター」に向かいます。
ここで山頂の写真を見せると,日和山の「登頂証明書」を発行してもらえるんです。↓これです。
立派な証明書ですなあ (^◡^)。
証明書と一緒にもらえる日和山のパンフレットも読み応えがあります。表紙に載っている写真は,上が現在の日和山,下は震災前の日和山ですね。震災前はけっこう立派な山ですねえ。
昔はここに立って,海の日和を見ていたんでしょうね。
このパンフに書かれていることはどれも興味深いですが,裏表紙の一節だけ引用します。
日和山は2011年東日本大震災の津波で削られ標高3メートルの山になり,2014年に再び日本一低い山に認定されました。
18年ぶりに再開された山開きには登山者が45名参加。以後,年々参加者が増え,4年後の2018年には約240名が参加して,まさにお祭り騒ぎの1日でした。
2019(平成31)年現在,流木でできた階段状の登山口から山の頂を目指すと,3歩進んで「9合目」,さらに3歩登ると,こんもりと石が積み上げられ,「日和山山頂3.0メートル」と標が立っています。私たちのまちのシンボル,日本一低い山「日和山」にぜひ登りにきてください。
シャレが効いた文章。地元の人たちもノリノリである(笑)。
それにしても2018年て,震災からの復興が,ようやく軌道に乗り始めていた時期ですよね。そんな中でお祭り騒ぎの山開き。日和山もまた,復興の心の拠り所になっていたんでしょうね。
おわりに
元気が出る,日本一の日和山。富士山が「日本最高峰」だから,こっちは「日本最低峰」という呼び方になるんでしょうか(笑)?
ネタのようでいて,震災について考えるきっかけにもなる登山。下山後には,牛タンやはらこ飯など,仙台の美味しいものを食べるのもいいですね。
宮城県に行く機会がある人,宮城に住んでいながら登ったことがない人,話のタネにぜひどうぞ!
みんなで「日本一の山に登ってきたぜ」と自慢しましょう。
登山記録
2023年9月17日
日和山登山口 (8:40 2秒) – 日和山頂上 (8:40 9秒–8:42 30秒) – 日和山下山口 (8:42 36秒)
休憩を除いた総行動時間 13秒
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