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【鵺 (ぬえ) と呼ばれた鳥】トラツグミを撮ってきた

トラツグミ

日本に古くから伝わる妖怪,鵺。その「鵺」のイメージの元となったとされる鳥,トラツグミに出会った話です。

トラツグミに出会いました

いつものように近所の川原を歩いて野鳥を探していると,何やら地面でガサゴソと動くものが。よく見ると鳥です。

大きさはツグミくらい。体型もツグミそっくりです。でも体の模様は金色と黒のしましまで,まるで虎のよう。

トラツグミ

トラツグミ

そう,これはトラツグミ。ツグミ科の鳥なのですが,その体の模様は,独特な雰囲気を醸し出しています。

「鵺 (ぬえ)」とトラツグミ

日本には古代から「鵺 (ぬえ)」という妖怪が伝わっています。鵺が最初に語られたのは,古事記や万葉の時代とも,平安時代とも言われています。

Wikipediaを見ると,鵺はこんな風に説明されています。

『平家物語』などに登場し、猿の顔、狸の胴体、虎の手足を持ち、尾は蛇。文献によっては胴体については何も書かれなかったり、胴が虎で描かれることもある。また、『源平盛衰記』では背が虎で足が狸、尾は狐になっている。さらに、室町時代には頭が猫で胴は鶏のものが出現したと書かれた資料もある。

「ヒョーヒョー」という、鳥のトラツグミの声に似た大変に気味の悪い声で鳴いた、とされる。

(Wikipedia から)

トラツグミは夜に「ヒョーヒョー」と物悲しく,聞き様によっては不気味な声で鳴きます。この声が得体の知れない妖怪「鵺」のイメージを生み出したようですね。

江戸時代の浮世絵師,歌川国芳は「木曽街道六十九次」の中で,「京都 鵺 大尾」という作品を残しています。

歌川国芳「京都 鵺 大尾」

歌川国芳「京都 鵺 大尾」(Wikipediaから)

この絵でも,キメラのような得体の知れない鵺の姿が描かれています。

そして現在,「鵺」は,その「得体の知れないもの」という意味合いから,とらえどころのない,なんとなく悪いもの,またはそういう人物といった意味にも使われています。

トラツグミの悲しげな眼

夜になると寂しげな声で鳴くというトラツグミ。その寂しき心ゆえか,それとも得体の知れない妖怪に例えられたのが悲しいのか,トラツグミの眼はどこか悲しげです。

悲しげな眼のトラツグミ

トラツグミの悲しげな眼

黄金色の羽に虎のようなしま模様,そして悲しげな瞳。ただならぬ雰囲気を持った鳥ですね,こいつは。

平家物語に見る「鵺」

再び鵺の話を。トラツグミの声が響くと不吉なことが起こると,古代の天皇家でも恐れられていたようです。

平家物語六十七「鵺」には,こんなあらすじが語られています。

仁平の頃,夜な夜な御殿の上を妖しい黒雲が覆って,帝(近衛天皇)を怯えさせるということがあった。

そこで公卿詮議が行われ,武士に警護させよという話になり,源頼政が選ばれた。

頼政は郎党の猪早太と共に怪物を退治した。その死骸を見ると,頭は猿,胴は狸,尾は蛇,手足は虎という恐ろしい姿だった。

(中略)

怪物の死骸は,うつほ舟(木の中身をくり抜いて空洞にした丸木舟)に入れて流したという。

また,應保の頃,鵺という怪鳥が夜な夜な鳴いて,帝(二条天皇)を悩ませていた。この時にも頼政が召しだされた。

真っ暗で敵の居場所がわからないため,頼政はまず一の矢を射て,それに驚いた鵺の羽音を聞き,その音めがけて二の矢を放ち,見事に鵺を退治した。

(平家物語「鵺」から)

この話の後段では,鵺が「怪鳥」と書かれています。ある時代から,鵺にはやはり鳥のイメージが重なっていたのでしょうか?

鳥山石燕「鵺」

鳥山石燕「鵺」(Wikipedia から)

これは江戸時代の妖怪画家,鳥山石燕による「今昔画図続百鬼」の中の「鵺」。黒い雲を呼び寄せているのが描かれています。帝もこんな雲に怯えていたのかも知れませんね。

各地に残る鵺の言い伝え

鵺に関する遺構や言い伝えは日本の各地に残っています。

源頼政の墓(兵庫県西脇市・長明寺)

例えば兵庫県西脇市の長明寺には源頼政の墓があり,頼政が鵺を射る様子も像となって残されています。

japanmystery.com

芦屋の鵺塚

また頼政が退治した鵺を乗せた丸木舟は,淀川を流れて芦屋付近に打ち上げられたとされており,兵庫県の芦屋には「鵺塚」があります。

japanmystery.com

鵺ばらい祭(静岡県伊豆の国市)

静岡県伊豆の国市では,毎年1月下旬に「鵺ばらい祭」が開催されます。

matsuri-no-hi.com

鵺を追い払うと福を招くというお祭りで(節分行事と結びついているのかな?),地元の中学生が鵺に扮して猛々しくも可愛らしく踊るとのこと。これは一度見に行きたいなあ。

平家物語で語られた,頼政による鵺退治の場面がこんな形で再現されているんですね。面白いなあ!

近づいてくるトラツグミ

ところで,はじめにトラツグミを見つけた時はけっこう離れたところにいたんですが,写真を撮っていると,だんだんこちらに近づいてきます。

近い!

近くに来たトラツグミ

近い近い近い!

寄ってくる!

どんどんこっちに寄ってくる!

どんどんこっちにきたトラツグミ。とうとう近すぎて,カメラのピントが合わないところまで来てしまいました(このとき使っていたレンズ,SEL70350Gの最短撮影距離は,テレ端で 1.5 mです)。

せっかくなので至近距離で撮った写真を拡大してみましょうか。

トラツグミドアップ

黄金色と黒の縞模様。くちばしを隠せば,これが虎の写真だと言われても信じてしまうかも(この鳥は多分タイガースファンだと思う)。

そしてくちばしの周りを拡大してみると

毛穴までドアップ!

…うん,やっぱりこいつは鵺ですわ。

近づきすぎて,全身が入らなくなっちゃったではないか。というか,野鳥を撮っていて「近すぎて困った」のはこれが初めてです (^ ^;)

近すぎて全身が入らない

近すぎぃ!

トラツグミ,食餌中

近くにやってきたトラツグミは,目の前で地面の枯葉をバッサバッサとひっくり返しています。虫を探しているようです。

そしてついに見つけたようです。小さなムカデを咥えました。

ムカデを咥えた

ムカデを咥えたトラツグミ

そして,捕まえたムカデをそのまま丸呑み!まじか。

ムカデを丸呑み!

ムカデを丸呑み!

ムカデを飲み込む時に,喉を刺されてチクチクしたりしないのかな?と心配ですが(想像したらゾワゾワするぅー!),鵺だから大丈夫ですね,きっと。

悠然たるトラツグミよ

トラツグミはこちらを気にするそぶりもなく,地面をつついては虫を探しています。その姿は,やはり人智を超越した存在のようにも見えてきます。

悠然たるトラツグミ

悠然たるトラツグミ

「食餌のじゃまをしてスマンかった…」

僕はそっとその場を離れました。

 

おわりに

川原で出会ったトラツグミ。その特異な風貌を見ているうちに,想像力が掻き立てられ,鵺の声が響く夜に投げ込まれたような気分になりました。

ちょっと妄想が過ぎたかな。

 

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